木春菊が咲く。

私が本当に別れたい思っていたらどうするつもりなのだろうと思いながら、私も彼と同じように笑ってしまった。でも、もしも涼が来てくれなかったら。あのまま別れていたら。私は確かに死んでいただろう。あの時涼が来てくれたから、私は手術を受けようと思えた。涼が愛してると言ってくれたから、私は生きようと思えた。もしも涼との関係があのまま終わっていたら、私は本当に一人ぼっちだった。今まで支えてくれてたと思っていたものが、崩れ落ちていたのだから。
「でもね」
涼は机の上に腰かけると、ポケットに手を突っ込んだ。
「本当はさ、きいちゃんのお父さんが、話してくれたんだ」
父が話した?いったい何を?私が思わず眉をひそめると、涼は寂しそうに微笑んだ。
「きいちゃんのお父さんと、桜さんと、それと、希さんのこと」
「何を聞いたの?」
私がそう尋ねると、涼が携帯を見せてきた。
「どうして、お父さんの連絡先が…」
「一年の時の文化祭で、お父さんが教えてくれたんだ」
「どういうこと…?」
私がそう尋ねると、涼は携帯に目を落とした。
「俺、ちゃんと知ってたんだよ。きいちゃんが白血病だってこと、一年の時から」
涼はさらに続けた。
「文化祭の時、お父さんが教えてくれたんだ。きいちゃんの病気のこと。それで、何かあった時には俺にも知らせたいって、連絡先教えてくれて。それからちょくちょく、きいちゃんの体調の事を俺に教えてくれてたんだ。それで、きいちゃんに別れようって言われたその後、きいちゃんが手術を拒否するかもしれないって聞いて。その時はもう夜だったから、次の日の朝に、会いに行ったんだ」
涼は顔を上げると、私の目を見てはっきりと言った。
「だから、きいちゃんが邪魔者のはずがない。お父さんは、本当にきいちゃんが大事なんだよ」
私が何も言えないでいると、涼は短くため息をついた。
「お父さんに言われたんだ。三度目の後悔だけは、絶対にしたくないって」
「三度目の後悔?」
どういうことかわからず首をかしげていると、涼は構わずそのまま続けた。
「お父さんはこれまでの人生で、死ぬほど後悔したことが二つあるんだって。一つ目は、桜さんが自殺しようとした時。桜さんがずっといじめに悩んでいた事に気がついてあげられなかった。何も知らずに、助けられなかった。それが、一つ目の後悔」
私は唇をかみしめて俯いた。