「理由はいろいろあったよ。ない時もあった。辛くて辛くてどうしようもなくて、このまま消えたい。はじめからいなかったことにしてほしい。そう思う事なんて、何度もあった。いじめられた時だって、本当は、そうだった」
そう話す泉さんの瞳は潤んでいた。
「違うんだよ、同じ言葉でも。友達から言われるのと、そうじゃない人から言われるのとでは。文字に起こしたら同じなのに、片方は一緒に笑えるのに、もう片方は、心の底からえぐられる。怖くて、悲しくて、仕方がない。二度と聞きたくないから、二度と明日なんてこなければいいって思うくらいに」
二度と明日なんてこなければいい。桜さんも、同じ思いだったのだろうか。死にたいと思うほど、辛い毎日を過ごして、ついには自ら命を絶とうとして。
「でも、死のうと思ったことはない」
彼女はそれだけ言うと、怖くてさ、と笑った。けれど私は、笑えなかった。そんな私に、今度は彼女が尋ねてきた。
「きいちゃんはあるの？」
私はどう答えればいいのか迷った挙句、首をかしげて曖昧な答え方をした。
「死んでればよかったって思ったことはあるよ」
つい最近だけど、と付け足して私は笑った。それから小さく息を吸うと、吐くように告げた。
「どうせ私は、桜さんが生きてたら、生まれてなんてこなかったんだ」
すると泉さんが私に静かに聞いてきた。
「桜さんて、きいちゃんのお母さんだよね？」
私は頷きも、首を振ることもせずにため息をついた。
「ずっとそう思ってたけど。桜さんは、私を産んでなかった」
泉さんは少し驚いたようだったけれど、それは本当に、ほんの一瞬だった。私は父と桜さんが以前付き合っていた事、桜さんが自殺を試みて植物状態になったこと、希さんが私を産んだ後に亡くなり、その直後に桜さんが回復したこと、そして、父と桜さんが結婚したことを泉さんに話した。話が終わった後に彼女がした質問は、至極冷静なものだった。
「それじゃあ、きいちゃんは、桜さんはお母さんじゃないと思ってるの？」
私は間髪入れずに答えた。
「お母さんじゃないんだよ」
ガタン。突然泉さんが勢いよく席から立ち上がった。驚いて彼女を見ると、泉さんの目には一杯の涙があった。そして彼女は震える声で怒鳴った。
「子どもを産めば母親になれるわけじゃない！」
そして泉さんは私に詰め寄った。