木春菊が咲く。

麻酔で気持ち悪くなりながら、私は何とか頷いてみせた。涼はほっとしたように微笑み、私の頭を撫でてくれた。
「手術は無事に成功です!」
まるで兵隊のように敬礼しながらそう言う涼がおかしくて、私は思わず吹き出してしまった。それからまだぼんやりする体を起こしてあたりを見渡したが、父はいなかった。きっと、桜さんの病室の方に行っているのだろう。そう思いながら私は嘲るように笑った。
「まだ寝てないとだめだって」
涼が慌ててそう言うので、私はそのままベッドに寝転んだ。終わったんだ。白血病、治ったんだ。二回も勝っちゃった。
 涼は隣に座ったまま私の手をぽんぽんと叩いてくれた。小さい頃、私が昼寝をする時にもよくしてもらっていた。涼の大きくて温かな手は、心の底から私を安心させてくれる。そのおかげもあったのか、私は再びすぐに眠ってしまった。夕方目覚めると、頭はだいぶすっきりしていた。すっきりしていたけれど、ベッドに取り付けられた机の上に築きあげられたトランプのタワーには、どう反応していいのかわからなかった。タワーの向こうから涼がひょいと顔を出した。
「みてみて。あと一段。凄くね?」
「いや、何やってんの」
呆れたようにそう言う私に、涼は真面目な顔をして答えた。
「いや、一応ここ病院だし、電子機器とか良くないのかなって思って。でもきいちゃん寝てるし暇だし、トランプでもしようかなーって」
「いや、そうはならないでしょ。散歩とか下のロビーでご飯とかカフェとか行ってればよかったのに」
けれど涼は当たり前のように首を傾げた。
「だってそしたら、きいちゃん起きた時、一人じゃん」
そんなことより、と言いながら涼は私に手招きをした。
「最後のてっぺん、きいちゃんおいて。俺緊張して、手震えてるからさ」
「え、いや、なんで」
「だから俺がやったら崩しちゃうから。ほら、早く早く。あ!ベッドゆらさないで!ほら、早く!」
「いや、数時間前に手術終わった人にそんなこと頼まないでくれないかな」
そう言いながらも私は何とか体を起こして涼から二枚のカードを受け取った。慎重に置こうとはしたけれど、トランプのタワーなんて久しぶりだ。それにこんな大きなタワー、初めてだし。涼が緊張するのもわかる。
 カードの端がタワーに触れた途端、それは呆気なく崩れ落ちた。
「あ」
「あ」