「きいちゃん…」
「そしたら二人でお幸せに暮らせるでしょ。いいよ、私このままどうなってもいいよ。死ぬのが怖いとかないし。あ、このままどうにかなれば、お母さんに会えるのか。本当の」
私がそう言ったとたんに、桜さんが泣き始めた。ベッドの横に来て、両手で私の体を揺さぶった。涙で顔がぐしゃぐしゃだ。
「なんで。なんでそういうこと言うの!きいちゃん頭いいんでしょ。私がこの話をどうして今したのか、考えてよ!」
わたしは再び腕で目を覆った。桜さんは私の体を揺さぶる一方、もう片方の手で自分の太ももを殴っていた。
「私はきいちゃんのお母さんでいたかった!でももうそんなのどうだっていい!きいちゃんが本当のお母さんのこと知って、私の事、もう二度と“お母さん”って呼んでくれなくったって別にいい!そうなったとしても…、そうなったとしても、私はきいちゃんに死んでほしくないから話したんだよ!」
わかってる。そんなこと、わかってるよ。私は腕を目に押し付けながら、歯を食いしばった。でも、どうすればいいのかわからない。このままこの人に、“助けてくれてありがとう”って感謝すればいいのだろうか。“ひどいこと言ってごめんなさい”って謝ればいいのだろうか。違う。そんなことをした所で、たった今空いた私の心の穴は、塞がらない。どうせ私は父が希さんと出会わなければ生まれていなかったのだ。どうせ私は、母が…桜さんが元気だったら、生まれることすらなかったのだ。
今はただ、私は、一人になりたい。
「帰って」
私は腕を顔に載せたままそれだけ言った。もう来なくてもいい。そう思いながら言うと、桜さんの泣き声はすすり泣きに変わった。それからしゃくりあげる音が聞こえた。父は何も言わなかった。けれどその後、二人が出ていく音がして、私は一人になった。
翌日石川先生が病室にやって来た時、私は骨髄移植を拒否したらどうなるかと尋ねてみた。先生は、桜さんが私の本当の母ではないことを知っているのだろうか。いや、先生は医者だ。母や父から何も言われなくても、気がついているに違いない。先生は私の横に腰かけながら告げた。
「治る見込みが限りなく低くなると思う。正直に伝えると、状況はよくない。だから、一刻も早く移植を行うべき、そういう状況だ。でももしそれを拒否するとしたら」
「そしたら二人でお幸せに暮らせるでしょ。いいよ、私このままどうなってもいいよ。死ぬのが怖いとかないし。あ、このままどうにかなれば、お母さんに会えるのか。本当の」
私がそう言ったとたんに、桜さんが泣き始めた。ベッドの横に来て、両手で私の体を揺さぶった。涙で顔がぐしゃぐしゃだ。
「なんで。なんでそういうこと言うの!きいちゃん頭いいんでしょ。私がこの話をどうして今したのか、考えてよ!」
わたしは再び腕で目を覆った。桜さんは私の体を揺さぶる一方、もう片方の手で自分の太ももを殴っていた。
「私はきいちゃんのお母さんでいたかった!でももうそんなのどうだっていい!きいちゃんが本当のお母さんのこと知って、私の事、もう二度と“お母さん”って呼んでくれなくったって別にいい!そうなったとしても…、そうなったとしても、私はきいちゃんに死んでほしくないから話したんだよ!」
わかってる。そんなこと、わかってるよ。私は腕を目に押し付けながら、歯を食いしばった。でも、どうすればいいのかわからない。このままこの人に、“助けてくれてありがとう”って感謝すればいいのだろうか。“ひどいこと言ってごめんなさい”って謝ればいいのだろうか。違う。そんなことをした所で、たった今空いた私の心の穴は、塞がらない。どうせ私は父が希さんと出会わなければ生まれていなかったのだ。どうせ私は、母が…桜さんが元気だったら、生まれることすらなかったのだ。
今はただ、私は、一人になりたい。
「帰って」
私は腕を顔に載せたままそれだけ言った。もう来なくてもいい。そう思いながら言うと、桜さんの泣き声はすすり泣きに変わった。それからしゃくりあげる音が聞こえた。父は何も言わなかった。けれどその後、二人が出ていく音がして、私は一人になった。
翌日石川先生が病室にやって来た時、私は骨髄移植を拒否したらどうなるかと尋ねてみた。先生は、桜さんが私の本当の母ではないことを知っているのだろうか。いや、先生は医者だ。母や父から何も言われなくても、気がついているに違いない。先生は私の横に腰かけながら告げた。
「治る見込みが限りなく低くなると思う。正直に伝えると、状況はよくない。だから、一刻も早く移植を行うべき、そういう状況だ。でももしそれを拒否するとしたら」