突然そんなことを言われて、私は意味が分からなかった。ただでさえ頭が混乱しているというのに、母は私をちらりと見るや、追い打ちをかけるように再び告白した。聞きたくない、その言葉を言えずに、私はただただ母のそれを聞くしかなかった。
「私は、きいちゃんを産んでないの」
どういうこと。嘘だよね。なんでそんなこと言うの。意味が分からず私は呆然とした。母は私を産んでいない。母だと思っていたこの人は、私を産んでいない。じゃあ、それじゃあ…。
「私を産んだのは、誰…?」
この当たり前の質問に、母は震える声で答えた。必死に泣くのをこらえているのだろう。
「希さん。この人が、希さん。あなたの…あなたを、産んだお母さん」
母はそう言いながら、足元に置いた鞄から一枚の写真を取り出した。私はそれを受け取り、恐る恐る覗き込んだ。まさか。こんなことがあるなんて。そう疑う私に、写真が現実をつきつけた。
そこには父と、まだ赤ちゃんの私を抱く女の人の三人が映っていた。真っ黒な髪に、微笑んで少し細めた瞳は、私と同じ薄茶色だった。これが、お母さん。私を産んだ人。本当の、お母さん。突然すぎる告白に固まっている私に、隣に座る母だと思っていた人が告げた。
「希さんはあなたを産んですぐ後に、病気になって亡くなってしまったの」
同じ白血病だった。白血病に遺伝性はないが、私は本当の母と同じ病にかかったのだ。母だと思っていたこの人、いや、桜さんはその後もそう説明したが、私はもう聞いていなかった。
私を産んだ母は白血病で死んだ。桜さんは私を産んでいない。私の本当のお母さんは、もうこの世にはいない。顔も、声も、なにも、覚えていない。存在すら、知らなかった。今まで。ずっと、今まで。衝撃と悲しみの塊が、心の水面を突き破るように沈み込んできた。けれどその心の水面下から静かに、けれど激しく湧き出てきたのは紛れもない、怒りそのものだった。
「なんでずっと、教えてくれなかったの」
その言葉を口に出すと、悲しみの塊はどんどん沈んでいって、かわりに怒りだけがのし上がってきた。ものすごい勢いで。
桜さんは目に涙を一杯に溜めながら頭を下げた。その拍子に彼女が耐えていたひと粒がぽたりと床に落ちた。
「きいちゃんを、悲しませたくなかったの。本当に、本当にごめんなさい」
「悲しむに決まってんじゃん」
「私は、きいちゃんを産んでないの」
どういうこと。嘘だよね。なんでそんなこと言うの。意味が分からず私は呆然とした。母は私を産んでいない。母だと思っていたこの人は、私を産んでいない。じゃあ、それじゃあ…。
「私を産んだのは、誰…?」
この当たり前の質問に、母は震える声で答えた。必死に泣くのをこらえているのだろう。
「希さん。この人が、希さん。あなたの…あなたを、産んだお母さん」
母はそう言いながら、足元に置いた鞄から一枚の写真を取り出した。私はそれを受け取り、恐る恐る覗き込んだ。まさか。こんなことがあるなんて。そう疑う私に、写真が現実をつきつけた。
そこには父と、まだ赤ちゃんの私を抱く女の人の三人が映っていた。真っ黒な髪に、微笑んで少し細めた瞳は、私と同じ薄茶色だった。これが、お母さん。私を産んだ人。本当の、お母さん。突然すぎる告白に固まっている私に、隣に座る母だと思っていた人が告げた。
「希さんはあなたを産んですぐ後に、病気になって亡くなってしまったの」
同じ白血病だった。白血病に遺伝性はないが、私は本当の母と同じ病にかかったのだ。母だと思っていたこの人、いや、桜さんはその後もそう説明したが、私はもう聞いていなかった。
私を産んだ母は白血病で死んだ。桜さんは私を産んでいない。私の本当のお母さんは、もうこの世にはいない。顔も、声も、なにも、覚えていない。存在すら、知らなかった。今まで。ずっと、今まで。衝撃と悲しみの塊が、心の水面を突き破るように沈み込んできた。けれどその心の水面下から静かに、けれど激しく湧き出てきたのは紛れもない、怒りそのものだった。
「なんでずっと、教えてくれなかったの」
その言葉を口に出すと、悲しみの塊はどんどん沈んでいって、かわりに怒りだけがのし上がってきた。ものすごい勢いで。
桜さんは目に涙を一杯に溜めながら頭を下げた。その拍子に彼女が耐えていたひと粒がぽたりと床に落ちた。
「きいちゃんを、悲しませたくなかったの。本当に、本当にごめんなさい」
「悲しむに決まってんじゃん」