「すぐにでも入院してほしいんだけど、大丈夫そうかな」
先生がそう尋ねてきて、私はしばらくしてからぼんやりと頷いた。
「わかりました」
後ろで話を聞いていた母が何度も頷く。先生は骨髄移植になった場合にも備え、ドナーを探す必要があるとも言っていた。
「まずは血縁者の方から探しますので、お母さん、いいですか」
先生の話を遮るように、母が立ち上がった。
「よろしくお願いします。お願いします。お願いします。きいちゃんを、桔梗を、助けてください」
何度も頭を下げる母に、先生が優しく、それでも医者として告げた。
「検査の結果、状況があまり良くないという事はお伝えします。ですが全く見込みがない訳ではありません。我々も全力を尽くします」
先生が私を見た。その瞳は、私の中の絶望の影に潜む、諦めすらも見抜いている様だった。
「だから桔梗ちゃん、一緒に頑張ろう」
私は一応頷いたが、心のどこかではやはり、自分の事を傍観している自分がいた。どうせいつかは死ぬんだ、と。結局、学校にも入院が必要になったことを告げるしかなくなり、涼や泉さんには病名を伏せ、入院になったと伝える羽目になった。二度も同じ病にかからなければよかったのだろうか。そもそも病にかからなければよかったのだろうか。今までの何がだめだったのかわからない。けれど、私は今回の入院が無ければよかったと、何度も思った。
 入院してから数日後、母が私の病室に来てくれたのだ。けれどこの日の母の表情はどこか暗かった。母は私のベッドの近くの椅子に腰かけると、調子はどうかと尋ねてきた。まあまあいいよ、と答える私をしばらく見つめた後、母は口を重そうに開いた。
「あのね、きいちゃん」
名前を呼ぶくせに、母は私から目を背けた。代わりに膝元に置いた手を見つめて、まるで何かを呑み込むように、言葉を吐いた。
「脊髄移植を、することになったの。私がドナーになるから」
脊髄移植の手術を行う可能性が高いと先生から聞いていた私は、さほど驚かなかった。私が息をのんだのは、母の次の告白に対してだった。
「だからきいちゃんは、血液型が変わる」
私の血液型はO型だ。でも母の血液型もO型のはずなのだ。
「え。なんで。だってお母さん、O型でしょ?」
半ば笑うようにそう聞き返した私だったが、母はただ静かに首を振るだけだった。
「本当は、AB型なの」