とりあえず頷いては見たものの、私はこの時の父の表情が気になった。治って良かった。そう口にしている反面で、何か別のことを考えているような、虚ろな瞳だったのだ。それに、結局父は手に取った焼き鳥もしばらく口にしなかった。母はそんな父をちらりと横目で見たが、なにも気がつかなかったかのようにオムライスを食べていた。
夏休みが明けても、蝉の大合唱はまだまだ騒がしかった。去年の夏、この蝉がうるさいとこぼす私に涼が言った。
「蝉は一週間しか生きられないんだよ。大合唱なんかじゃない。叫びだよ。命の。ちゃんと聞けよ。ほら、必死じゃん」
普段はお茶らけた事しか言わない涼だが、二人になるとこうしてたまに真面目になって自分の考えを言う事があった。命の叫びか。一人で学校に向かいながら、彼の言葉を反芻するが、うるさいものはやはりうるさかった。
燃え盛るような蝉たちの叫びとは対照的に、自然公園の葉桜の青さには勢いがなくなっていた。秋には枯葉を落として、寒い冬を超え、再び春には満開の桜を咲かせるのだろう。そんなことを考えながら歩いていた私の背中を、誰かが叩いた。振り向くと、そこにはこんがり日焼けした泉さんがいた。
「久しぶり」
私がそう言うと、彼女は白い歯を見せながら笑った。泉さんも結局私の病気のことは知らずじまいだった。メッセージでのやりとりは何度かしていたが、直接会うのは夏休み前に最後に投降した日以来だ。
「久しぶり。どうだった、お祖母ちゃんの家」
「まあまあ楽しかったよ」
彼女の質問にぼんやり答えていると、彼女は私を眺めまわすように見て疑うような眼差しを向けた。
「うーん、本当?前よりかは肉付き良くなったけど、全然焼けてないじゃん。まさか、せっかく大自然の田舎に帰ったのに、一日中クーラーの効いた部屋で寝転んでたなんてこと、ないよね」
まさか、と肩をすくめる私に彼女が耳打ちした。
「私ね、杉野君と、大阪に旅行に行っちゃった!」
夏休みが明けても、蝉の大合唱はまだまだ騒がしかった。去年の夏、この蝉がうるさいとこぼす私に涼が言った。
「蝉は一週間しか生きられないんだよ。大合唱なんかじゃない。叫びだよ。命の。ちゃんと聞けよ。ほら、必死じゃん」
普段はお茶らけた事しか言わない涼だが、二人になるとこうしてたまに真面目になって自分の考えを言う事があった。命の叫びか。一人で学校に向かいながら、彼の言葉を反芻するが、うるさいものはやはりうるさかった。
燃え盛るような蝉たちの叫びとは対照的に、自然公園の葉桜の青さには勢いがなくなっていた。秋には枯葉を落として、寒い冬を超え、再び春には満開の桜を咲かせるのだろう。そんなことを考えながら歩いていた私の背中を、誰かが叩いた。振り向くと、そこにはこんがり日焼けした泉さんがいた。
「久しぶり」
私がそう言うと、彼女は白い歯を見せながら笑った。泉さんも結局私の病気のことは知らずじまいだった。メッセージでのやりとりは何度かしていたが、直接会うのは夏休み前に最後に投降した日以来だ。
「久しぶり。どうだった、お祖母ちゃんの家」
「まあまあ楽しかったよ」
彼女の質問にぼんやり答えていると、彼女は私を眺めまわすように見て疑うような眼差しを向けた。
「うーん、本当?前よりかは肉付き良くなったけど、全然焼けてないじゃん。まさか、せっかく大自然の田舎に帰ったのに、一日中クーラーの効いた部屋で寝転んでたなんてこと、ないよね」
まさか、と肩をすくめる私に彼女が耳打ちした。
「私ね、杉野君と、大阪に旅行に行っちゃった!」