七月に入っても症状はあまりよくならなかった。これまでの診断結果を見返しながら、石川先生が顎をさすった。
「もしもこのまま症状が改善しなかったり、悪化したりすれば、入院が必要になるかもしれません」
私の後ろに座っていた母が短く息を吸う音が聞こえた。確かに体はだるいし、時々発熱することもあり、時には骨が痛む気がしたこともあった。でも多分、どうにかなる。白血病は死を招く病だとは知っていた。でもどうしてか、私は死なないと思っていた。どんな自信があったのだろう。それでも私は、自分の死が迫っているなんて、考えられなかった。それから二週間後では。
 二週間後、お風呂に入っていると、ふと足にあざができている事に気がついた。それを母に告げると、傍にいた父が翌日の朝一番に私を病院に連れて行った。前回と同様に、私に有無を言わせずに連れていった。
「どこにもぶつけてない?」
先生にそう尋ねられて、私は頷いた。バスケ部はもうやめたし、ここ最近足をぶつけた事もない。
「このあざは本当に白血病が原因なのか、詳しく調べないとわかりません。でももしそうだとしたら、直ちに入院する必要があります」
先生は顔を上げながらそう言い、奥にいた看護師に私の精密検査をするよう指示した。どんな感情を抱こうと、起きる事は起きるし、やるべきことはやるしかない。私は病魔に蝕まれていく自分の体を、心のどこかでは傍観していた。反対に、私が部屋を出る時に見た父の顔は青白かった。まるで父の方が病気にかかっているようだと思うくらい。
「先生、桔梗は・・・」
という父の話し声を背中で聞きながら、私は目の前の看護師について歩いた。そして何度目かの精密検査を受け、入院が決まった。私の白血病は慢性のものだったが、急性に転化したらしい。夏休みが始まる三日前だった。私は翌日から学校を休み、そのまま入院をした。