翌日の精密検査の結果、私は急性ではなく、慢性の白血病だったことが判明した。先生曰く、私の脚のあざを見て急性を疑ったようだが、それは白血病が原因ではなく、単に部活でできたあざだったらしい。けれど治療が必要なことには変わりなく、私にはまず分子標的療法というものが施されることになった。薬を飲んで元凶をしばくらしいが、これで効果が無ければ他の療法を行う事になるらしい。こうして私の“闘病生活”が始まったのだが、当の本人は全く自覚がなかった。自覚が持てればよかったのだろうか。自分を心配してくれる存在を、受け入れられなかったのだ。それまで学校で何かあったのではと執拗に心配していた母にイラついていたのに、白血病とわかった途端、その役目は父のものになった。罹ったものは仕方がない。どんな感情を抱こうと、時間が来たら登校しなければいけないように、病院からやれと言われたことをやるしかない。だから心配したりおろおろしたりするところで、病気が治る訳じゃない。だからさほど、そう、気にしないで欲しかった。
 白血病になって変わったことはいくつかある。毎日薬を飲まなければいけなくなったこと。週に何度か病院に行かなければならなくなったこと。そのせいで部活に参加できる日数が減り、バスケが下手になったこと。そして、部活を辞めたこと。部活の顧問と担任の先生には病気のことを伝えたが、部活仲間や涼には何も話していなかった。もちろん泉さんにもだ。白血病でも学校には行けるし、それを告白して周りの人の態度までが父や母のように変化するのが嫌だった。特に、涼がそうなるのが、嫌だった。それになにも余命宣告されたわけではないのだ。治ったのなら何事もなかったかのように過ごせばいい。部活を辞めた後も涼とは付き合っていたが、彼は私が部活を辞めたことに納得していないようだった。
 どうして部活を辞めたのかと聞かれて、私は“レギュラーから外されたから”とだけ言った。勿論涼はそんなことで私がやめるはずがないとわかっていたが、それ以上は聞くなと私が意図して自分の顔に書いたので、彼もそれを酌んでくれた。涼は素直で優しいうえに、卑怯なことはしない。だから、私が何か隠しているとわかっていても、私に隠れてその秘密を暴こうとはしないだろう。それを知った上で秘密を持っていることを秘密にしない私は、卑怯者だ。