聞かれるとわかっていたのだろう。父が私の質問にたじろぐことはなかった。けれどどう答えるかまでは考えていなかったらしく、すぐには答えてくれなかった。
「ずっと、元気がなかったからな。なんか、嫌な予感がして」
ようやく出した父の返答は、それだった。
「嫌な予感、的中したね」
少しだけ笑いながらそう言う私に、父は何も返さなかった。ただ、
「疲れただろ。家に着いたら、風呂に入って休め」
とだけ言った。
「うん」
私は頷くと、窓に腕と顔を寄りかからせて瞼を閉じた。
家に着いて、あの時の父の電話相手が仕事先では無かったことを知った。家に帰るや否や、母が私の手をそっと握ったからだ。診断結果はまだ知らないようだったが、ただの風邪じゃないかもしれないと、父から聞いていたのだろう。何か覚悟を決めたような顔をしていた。
「ただいま。私、白血病だってさ」
あした、テストだってさ。そんな雰囲気で診断結果を伝えた私に、母は父と同じく、何も言わなかった。母の手を放してリビングに行く私の後ろで、母は俯いていた。
「明日、また精密検査をするらしい」
父が車の鍵を下駄箱の上の缶に入れながら言った。
「そう」
母はそう頷くと、キッチンに行った。
「真理子おばさんから、ビワを頂いたの。食べる?」
「大丈夫」
私はそれだけ言うと、お風呂場へむかった。けれど心の何かが引っ掛かって、水を一杯飲みに来たという体で母の側に行き、ぼそりと言った。
「明日の朝、食べてく」
母は、わかった、と微笑んで頷いてくれた。
「ずっと、元気がなかったからな。なんか、嫌な予感がして」
ようやく出した父の返答は、それだった。
「嫌な予感、的中したね」
少しだけ笑いながらそう言う私に、父は何も返さなかった。ただ、
「疲れただろ。家に着いたら、風呂に入って休め」
とだけ言った。
「うん」
私は頷くと、窓に腕と顔を寄りかからせて瞼を閉じた。
家に着いて、あの時の父の電話相手が仕事先では無かったことを知った。家に帰るや否や、母が私の手をそっと握ったからだ。診断結果はまだ知らないようだったが、ただの風邪じゃないかもしれないと、父から聞いていたのだろう。何か覚悟を決めたような顔をしていた。
「ただいま。私、白血病だってさ」
あした、テストだってさ。そんな雰囲気で診断結果を伝えた私に、母は父と同じく、何も言わなかった。母の手を放してリビングに行く私の後ろで、母は俯いていた。
「明日、また精密検査をするらしい」
父が車の鍵を下駄箱の上の缶に入れながら言った。
「そう」
母はそう頷くと、キッチンに行った。
「真理子おばさんから、ビワを頂いたの。食べる?」
「大丈夫」
私はそれだけ言うと、お風呂場へむかった。けれど心の何かが引っ掛かって、水を一杯飲みに来たという体で母の側に行き、ぼそりと言った。
「明日の朝、食べてく」
母は、わかった、と微笑んで頷いてくれた。