いつも行く小さな病院は既に閉院していたので、父は私を近くの大学病院に連れていった。診察は簡単に終わったが、診察室から出ると同時に父が部屋に入った。
「え、お父さん。終わったんだけど」
「桔梗は少し外で待ってなさい」
父の声はどこか冷たかった。いや、焦っていたのだろうか。とにかく私の返事も待たずに診察室に入って扉をしめた。
 仕方なく待合室の椅子に腰かけていた私だが、数分後、アナウンスで再び名前を呼ばれ、私は診察室に入った。そこには壁際の椅子に腰かける父と、先程私の診察をしてくれた若い男性の石川先生がいた。
「桔梗さん、もう一度、診察してもいいかな」
「え。あ、はい」
先生に促されて席に着いた私に、先生が静かに尋ねた。
「さっき君は、“今日の朝から体がだるい”と言っていたけれど、そのだるさは今日、気づいたのかな。もう少し、続いていたなんてことはあるかい?」
私が頷くと、先生は父をちらりと見てからメモを取った。それから食事の量や他の体の異常など、先程の診察で聞かれたことをもう一度問診された。父が何を話したのかは大抵予想がついた。きっと父は、私の今日の体調不良がこれまでのだるさや食欲不振の延長だと考えているに違いない。そんな心配しなくていいのに、そう思いながら先生からの質問に答えていた。途中、先生は私に袖をまくって、靴下を脱ぐように言った。
 もう一度脈を確かめられている間、私は自分の腕と足がこんなにほっそりしていたことに気がつき内心驚いていた。バスケの練習でできたのか、細くて青白い足にあざができていた。そうだ。もうすぐ夏休みだ。夏の試合でもシュートを決めるという目標を思い出した私は、無性にバスケがしたくなってうずうずした。ようやくすべての問診が終わった時、先生は顔を上げて私に言った。
「ちょっと、血液検査をしてもいいかな」
明日の部活には参加できるだろうかと考えていた私は、そのまま頷いて自分の指先から抜かれる血液をぼんやりと眺めていた。