けれど翌日もその翌日も、朝のだるさは相変わらずだった。ただ、学校に遅刻するほど寝坊するわけでもないし、風邪のようなだるさでもなかった。春の暖かさに体が甘えているような感じだった。きっとそのうちすっきりするだろうと思っていた。
「なんか最近元気なくない?」
朝のホームルームが終わった後、泉さんが私の席までやって来た。彼女とは今年も同じクラスだった。私は首をかしげながら伸びをした。
「なんか体がだるくてさ。春先だからかねー」
泉さんは、確かに、と笑うと英語のノートを取り出した。杉野と付き合ってから、というよりも英語の試験で八十二点を取ってから、彼女は英語ばかり勉強するようになった。英語の先生も彼女の成績がこんなに伸びたことに驚いていた。今や英語は彼女の得意教科だ。英語が唯一の苦手教化だった彼女がそれを克服した今、彼女はまさに才色兼備の少女となっていた。それをしった鈴原は最近また彼女のことをちらちら見るようになったが、彼女は気がつかないふりをして杉野と一緒に楽しげに話すばかりだ。
 一方私と涼は相変わらずのんびりと過ごしていた。クラスは別々だった。冬休みの試合以降本調子がなかなか出ずに塞いでいた彼だったが、ようやく最近スランプから脱したらしく、部活でも仲間と冗談を言い合ったりしていた。私はどこかだるい体で部活に参加していたが、一旦練習が始まるとそれまでのだるさは嘘のようになくなった。それでも練習でどんなに体を動かしても前程食欲はなく、五月半ばにはだいぶ体重が落ちてしまった。
「夏バテとかしてない?」
部活の帰り道、涼が突然そう聞いてきたので、私は、まだ五月だよ、と笑った。けれどそれでも涼は心配らしく、くすりとも笑わなかった。
「でも最近急に暑くなってきたしさ。ちゃんと食べてる?」
そう言いながら涼はリュックからラップに包まれたおにぎりを取り出した。育ち盛りの涼は、学校から家まで持たないと言い、買い食いをしたりおにぎりを食べたりする。
「ほら、やるから食えよ」
「いや、いいよ。それ涼の分でしょ」
私は両手を振って拒んだが、涼はその手を強引に引っ張っておにぎりを持たせた。
「きいちゃんが元気ないのに、食ってられっかよ。ちゃんと食ってくれないと、俺、心配で、明日からもおにぎり食えねえからな。俺に食ってほしけりゃ、まずはきいちゃんがちゃんと食べてよ」