何度も大きく頷き、私はもういちど先輩にお礼を言った。翌日からの練習はがらんとしていた。三年生は五人しかいなかったのに、その五人がいなくなっただけで、こんなに寂しいとは思わなかった。けれどやはり、引退した先輩も、きっと私のことをいつかは忘れてしまうのだ。確かに先輩の後輩だったけれど、“特別仲の良い”後輩ではなかった。部活以外の思い出は何もない、ただの部活の後輩にしか、なれなかったのだ。
 ふと体育館の向こうを見ると、男子バスケ部が鬼気迫る雰囲気で練習していた。男子チームは二回戦を突破した。しかし次は去年の準優勝校と当たるらしく、キャプテンの木月先輩も気が立っていた。しかし結局、男子チームも三回戦で敗退し、男子の先輩も引退することになった。涼は先輩が引退したことよりも、試合でシュートを一本しか決められなかったことに落ち込んでいた。
「私なんて一本も決められなかったんだから。一本決めただけでも、すごいと思う」
翌日の練習の帰り道、隣で黙りっぱなしの涼にそう言ったが、彼は黙ったままだった。さっきまでチームの人と冗談を言い合っていた彼が、唇をかみしめたまま、ただ、何も言わなかった。いつものコンビニに寄って行くかと聞いた時、涼はただ首を振った。その時の涼の顔を、今でも忘れられない。自分自身に、心の底から、失望している様だった。
「シュートでしか、役に立てねえのに」
「え?」
涼がぼそりと言ったので、思わず聞き返してしまったが、彼は顔を上げると、今度は怒鳴るように言った。
「シュートでしか役に立てねえってのに!なんもできなかった。畜生!あと二点。あと二点決めてればさ!」
涼はそのまま俯くと、再び黙り込んだ。慌てて駆け寄った私に、涼は背を向けた。
「わりい、俺もう今日は先帰るわ。きいちゃんも、気を付けて帰れよ」
背が高いのに、小さく見える彼の背中に、私はとにかく慌てて思わず声をかけていた。
「つ、次の試合!」
涼は立ち止まると、肩越しに私を見た。白い息を吐きながら、私は縋るような思いで涼に言った。
「次の試合があるから。涼はまだ引退じゃないから。だから…」
ただただ、大切な人が自分を責めるのを見たくなかった。少しでも元気を取り戻して欲しかった。ただそれだけだった。その思いが伝わったのかはわからないけれど、涼は少しだけ微笑んでくれた。
「おう」