私が笑うと、涼は頬を膨らませたその直後、確かに、と納得もしていた。涼のころころ変わる表情は見ていて飽きなかった。
 帰り道、本物の星空を眺めながら私達は手をつないだ。寒い大気はどこまでも澄んでいて、都内の明るい夜空でも星は煌めいていた。
「綺麗だね」
涼の手を握ったまま私が言うと、涼は私の手も一緒に彼のポケットに突っ込んだ。
「うん。綺麗だ」
もうすぐ冬休みがくる。休みが明けて期末テストを受ければ、もう一年生は終わりだ。来年の今頃も、その先の今頃も、こうして涼と一緒にいられるのだろうか。流れ星を探す涼の横顔を見ながら、私は神様にお願いした。このままずっと。ずっと、こうしていられますようにと。
 冬休み前は父も母も仕事が忙しくなったようで、帰りが遅かった。私もこの頃になるとバスケ部のレギュラーに選ばれるようになり、練習はよりきつく、より長くなった。正確なシュートが持ち前の涼は、一年の夏ごろから三年生と一緒に試合にも出ていた。ようやく涼に追いつけたのが嬉しくて、私はきつい練習にもなんとか食らいついた。そのおかげもあり、パス回しやドリブルはチーム一だと監督にも褒められた程だ。へとへとになって家に帰って来ても誰もいないのは少し寂しいけれど、冬休み中にある試合とその先の期末テストにむけて頑張るのだと、己に言い聞かせた。私が高校に入学する前、父が一度だけ言っていた。学生のうちくらい何もかも忘れるくらい、何かに打ち込め、と。そう言う父は、一体どんな学生だったのだろう。今度聞いてみようと思いながら、私は部屋着に着替えた。
 冬休みはあっという間に過ぎた。バスケの試合は初戦敗退だった。運悪く去年の大会の優勝校と当たってしまったのだ。試合には出れたものの、一点も決めることはできず、目の前で悔し涙を流す先輩達に、私は顔向けできなかった。この試合が、先輩たちの引退試合だったのだ。
「桔梗は頑張ったよ。本当に、上達した」
キャプテンの莉奈先輩がそう言って私の頭を撫でてくれた。練習では鬼かと疑うくらい厳しかった先輩に突然そう言われて、私は涙をこらえられなかった。
「三年間、ありが、とうござい、ました」
喉の奥に熱いものが込み上げてきた。ぼろぼろと熱い涙が頬を伝う。莉奈先輩は優しく笑って私の肩を叩いた。
「ちょくちょく試合見に来るから。下手になってたら承知しないからね」