結婚・・・。突然の突拍子もない発言に私は手に持っていた段ボール製のお化け屋敷の看板を折ってしまった。
「突然、なにを、言い出すかと、思えば」
折ってしまった段ボールを慌ててまっすぐにしようとしたが、一度折れてしまった看板は、折り目を境にへなへなになってしまった。
「あ、壊したー。クラスの共有財産を、きいちゃんが壊したー」
指さしながら避難してくる涼の向う脛を私は思いっきり蹴った。痛みで声にならない叫びをあげている涼を横目に、看板で自分の顔を仰いだ。とても、熱かった。
 文化祭の後、泉さんは同じクラスの鈴原という男子生徒と付き合う事になったらしく、クラスどころか、学校中がその話題でもちきりだった。鈴原は学年一の美少年と言われており、先輩からも告白されている。尚且つ学力もトップクラスだ。そして相手が学校のマドンナ的存在の泉さんということで、ビックカップルが誕生したという訳だ。鈴原ファンの女子から嫌がらせを受ける事もあるようだったが、泉さんはそれを一蹴していた。
「あんなの嫌がらせにもなってないよ。それにあのバカ達、ああいうことしたら鈴原に嫌われるってわかってないのかねー」
昼休みに中庭のベンチ二人で座っていた時、彼女がのんびりとそう言った。私は普段、昼食を食べ終えるとこのベンチで過ごす。音楽を聴きながらぼーっとするのだが、今日はたまたま泉さんが通りかかり、そのまま話す流れになったのだ。
「確かに、自分の彼女に手を出されたら、鈴原君も黙ってないよね」
「まあ、私には彼の助けなんていらないけどね」
そう言いながら、泉さんは指の関節をぽきぽき、いや、ぼきぼき、いや、ばきばきと鳴らした。彼女に狩られるとでも思ったのか、傍にいた小鳥達がぱたぱたと飛び去って行く。
「しばくにしても、ほどほどにね」
苦笑しながらそう言う私に対して、泉さんはわざと真面目に言った。
「何言ってんの。やるなら徹底的に、でしょ」
「これは泉さんの旦那さんになったら、鈴原君も大変だね」
私がそう言って茶化すと、マキはひらひらと手を振った。
「ないない。鈴原と結婚なんてないって」
「え?」
「え?」
驚いて私が聞き返すと、泉さんも驚いて聞き返した。状況が呑み込めない私とは違い、彼女はしばらく黙った後に、にやにやしながら私に近寄ってきた。