「やっぱり甘いものはおいしいわね」
お母さんがそう言って笑うと、涼もこくこくと頷いた。彼女の母親に初めて会っているというのに、おいしいケーキを食べる方を優先する涼を、相変わらずだなと思いながら私は眺めていた。
 夏休みが終わると定期テストと文化祭が待っていた。日本史が苦手な涼の勉強に付き合うのも楽しかった。文化祭ではお化け屋敷をやることになり、クラスの皆と協力しながら暗幕を張ったり仕掛けを作ったりした。文化祭当日には父も母も来てくれたので、私はこの日、初めて父に彼を紹介した。涼は緊張で顔を赤くしながら何度も父にぺこぺこと頭を下げていた。
「ほんと、お似合いだよね」
遠くで話す父と母と涼を見ながら、泉さんが私に言ってきた。泉さんは先月付き合った彼氏と別れてしまったが、彼がつまらないから振ったらしく、彼女自身はぴんぴんしていた。反対に降られた彼氏の方は彼女に未練があるらしく、タピオカを飲みながら泉さんの方を見つめていた。泉さんも泉さんでそれに気がついていたが、鼻で笑って肩をすくめた。
「もうこれっぽっちも好きじゃないから。ていうか私、さっき告白されたし」
「え!?」
私が驚くと、泉さんは顔もとでピースサインをした。
「隣のクラスの磯原くん。でも振ったよ。タイプじゃないんだもん」
相変わらず泉さんは物事をはきはき言う。相手が誰だろうと彼女には関係ないのだ。私はそれをよく知っている。あの日、数人の女子に堂々と言い返していた彼女の姿をまだ覚えているからだ。
「先週も先輩から告白されてなかった?」
すると泉さんは、そんなこともあったっけ、と言いながら首を振った。
「あれはないない。ハンカチ拾っただけで運命だとかいうんだよ。少女漫画かっつーの」
そう言いながら彼女はお化け屋敷の呼び込みの為に、チラシを配りに行った。すらりとした長身の彼女に、一般客も一目置いていた。
「お化け屋敷、どうですかー!こわーいですよ!よかったら、どうぞ!」
元気いっぱいに宣伝する彼女を見ていたら、両親と話し終えた涼がちょうど戻ってきた。
「あ、涼。お父さんと話せた?」
私がそう聞くと、涼は首筋を掻きながら苦笑いした。
「まあね、でもなんか俺、緊張しちゃった」
「大体そんなもんなんじゃない?うちのお父さん、不愛想ってよく言われてるし」
「でも俺がこんなんじゃ、結婚させてもらえるかわかんないじゃん」