夏休みの一週間前、私は一人の男子生徒に告白されたのだ。名前は谷川涼。そう、遠足で一緒になった、同じバスケ部の彼だ。背が高く、柔らかく茶色がかった黒髪は癖っ毛だった。いつも馬鹿なことばかりして、へらへらしている彼だったが、この時ばかりは顔も耳も真っ赤にしていた。日が長くなったせいで、練習終わりでも日は沈んでいなかった。体育館の向こうに沈んでいく夕日の前で、涼は私に告白してくれた。人生で初めての告白に、私はどうすればいいかわからなかった。けれど、試合で負けた時、みんなの前では茶化してきたのに、帰り道で二人になった時には本気で励ましてくれた彼の優しさが、女子バスケの試合だというのに、わざわざ応援に来てくれた優しさが、私は秘かに好きだった。誰にでも分け隔てなく接することのできる彼を私は尊敬していた。だから私は、頷いた。
 告白されたのが夏休み前だったという事もあり、学校での冷やかしにはさほどあわずに済んだ。代わりに夏休みには一緒に水族館に行ったり、プロのバスケの試合を見に行ったり、カラオケに行ったり遊園地に行ったり、映画を観たり、とにかくたくさん出かけた。学校で皆と一緒にいる時の涼とは違い、二人だけの時は大人びて頼りになる涼を、私はどんどん好きになった。夏休みには彼と花火大会に行くことになった。
 夏祭り当日、私は母に頼んで浴衣を着させてもらった。白地に紫の桔梗の花が描かれた浴衣で、一昨年母が買ってくれたものだった。
「髪型どうする?お団子?」
母が携帯でいろんなヘアスタイルを見せてきた。私はどれが自分に似合うかわからず、肩をすくめるだけだった。
「きいちゃんならこれも似合いそうだけど、ちょっと崩れやすいかな。こっちの方が清楚に見えるし、どう?確か青い花飾りがあったから、それ付けたら絶対可愛いって!」
きゃっきゃとはしゃぎながら母がそう言うので、私は母にお任せすることにした。母は
「了解!」
と敬礼すると、霧吹きと櫛を両手に私の髪を整え始めた。長い黒髪が梳かされ、しゅっしゅと霧吹きで水をかけられる。その時、母が私に言った。
「本当に大きくなったねえ、きいちゃん」
「そうかな」
夏らしい夕日が差し込んでくる中、私は頬が熱くなるのを感じた。母は、そうだよ、と言いながら手際よく髪を結っていく。