「じゃあ、こっちを引けば俺はあがれるんだな。もしこれで違ったら、お前卑怯だからな?」
その言葉に上野が焦った。
「いや待てよお前、そう言う方が卑怯じゃね?そんなこと言ったら俺嘘つけないじゃん」
片桐は、ばーか、と言いながら見事数字の方のカードを引いた。
「そういうゲームなんだよ」
手元に残り続けるジョーカーに絶望しながら、上野は敗北の叫びをあげた。
「うわあああああ。まけたあああ」
「うるせーよ」
勝利の高笑いをしながら片桐はそう言った。上野はもう一回、もう一回、と言ったが片桐は配る時と同様に手際よくトランプをケースにしまった。雨はもう、ほとんどやんでいた。
 それから少し短くなってしまった班行動の時間を、私達の班はふれあい広場で過ごした。温かいウサギの体を撫で、小さなヒヨコを観察したりした。湯河原はヤギにジャージの袖を噛まれていたりもした。その後は羊のショーを観て、再び牧場を周った。羊のショーを観終わった後暗いからだろうか、どの班もばらけ始めたのは。あっちにちょこちょこ、こっちにちょこちょこと全員が自由に回っていた。一見班で行動しているようだが、その班員はことあるごとに入れ替わり、正規の班のメンバーではなくなっていたのだ。
 これには私もほとほと困ってしまった。決まったメンバーでの移動なら何も迷うことなくついて行けたが、班員がばらけてしまうと誰について行けばいいのかわからなくなる。やはりここは班長について行くべきかとも思ったが、片桐の行く先は男子ばかりの集団だったりもするので、なかなかそうもいかなかった。副班長の相生はあっちへいったりこっちへきたりしているうちに見失ってしまい、ついに私はそっとその場から抜け出した。
 霧で包まれた牧場は遠くまで見渡せなかったが、それでもどこまでも続く草原があるのは確かで、点々といるアルパカを見るのは面白かった。今は三時四十分で、次の集合時間は四時半だ。それまでに先程の倉庫に戻っていればいい。私は腕時計を確認しながら一人でアルパカを眺め続けていた。背後からアヒルの鳴き声が聞こえてきた。
ふり返ると、向こうの柵の中でちょうどアヒルが解放されていた。ここが少し離れた場所だからか、他に生徒はいないようだった。それどころか悪天候の今日は一般のお客もいないようで、アヒルを解放し終えたスタッフが去ると、人間は私だけになった。