「しねえよ。いいから帰れって」
「こら!いつからそんなこと言うようになったんだ」
上野はそう言いながらもぐもぐとご飯をかき込んだ。なにやってんだろね、と呆れるように目配せしてきた相生を見て、私は岩井と一緒に笑った。
「いいからお前、自分の班に帰れよ」
湯河原が笑いながらそう言うと、父親のような雰囲気とは打って変わり、上野はちょこんと体育座りをして片桐の服の袖を掴み、小さな子供のように言った。
「やだ、片桐と一緒にいる」
「うわ、きも。せんせー上野が自分の班でご飯食べてませーん」
片桐が片手をしっかりあげながらそう言うと、遠くで愛妻弁当を食べていた先生は、まったく、というように笑いながら上野に戻るよう促し、上野もようやく自分の班へと戻っていった。
「上野君、片桐君のことほんとに好きだよね」
自分の班に戻っていく上野の背中を見つめながら、相生が片桐に言った。
「この前の昼休みでもダルがらみされてたでしょ」
「ごめんね、うるさかったよね」
片桐はそう言いながら相生に謝ったが、彼女は慌てて首を振った。
「いや、むしろ見ててめっちゃ面白かった。なんか、漫才みたいで。ね?」
隣でサンドイッチを食べていた岩井もこくりと頷いた。
「本当に仲いいよね。同じ中学校だったりしたの?」
岩井の問いかけに片桐は吹き出しそうになった。
「んなわけないじゃん。高校に入って初めて会ったわ」
すると相生は少し羨ましそうに言った。
「仲良くなるの、はやいね。いいなー」
片桐はから揚げを頬張りながら、きょとんとした。
「え?相生さんも岩井さんとめちゃ仲いいじゃん。出身校同じかと思ってたくらいだし、違うの?」
意外なことを言われたのか、相生は顔を赤くさせて首を振った。
「違うよ!全然違う中学!え?そんな仲良く見えるかな?」
から揚げをもぐもぐしながら片桐は頷いた。
「うん。いつも一緒にいるし。なあ、湯河原。あ、ごめん、友達のいないお前に友達の話は酷か」
春巻きを食べていた湯河原が咽た。
「ひでーな、そんな気を使わなくって平気だって」
「いや、友達いない方を否定しろよ」
半ば本気で引いている片桐をよそに、湯河原は残りの春巻きを呑み込んで、そうか、と呑気に納得していた。