班長の片桐がそう言いながら彼女の隣にどっかとリュックを置いた。眼鏡が雨粒だらけだった。彼はそれを服の袖で拭いた。ちなみに今日の自然教室は制服ではなく私服での参加だった。私は無地のシャツにスポーツジャージという地味な格好だったが、片桐は黒いデニムを履いており、上は黒字に英語のロゴが入ったオーバーサイズのお洒落なパーカーを着ていた。相生はカーキのジャケットに白のブラウスとジーパンで、彼女の隣にちょこんと座っていた岩井はジージャンに白いブラウスと薄い水色のスカートだった。そしてなぜか、湯河原は上下ともに学校のジャージだった。朝彼の格好を見た林先生は、少し驚いていたけれど、声をたてて笑っていた。皆そうだが、お前は特に学校の看板を背負っているのと同じだからしっかりするように、と。
「もう腹減って腹減って。早く食べよー」
片桐はお弁当を膝に乗せながら後ろに反り返って座っていた。班員全員が準備を終えると、片桐はぱちんと手を合わせて号令をかけた。
「いただきます」
いただきます、と班員も復唱した。倉庫内のあちらこちらでも号令が聞こえてくる。相変わらず、上野の班だけは一味違った。彼は有名な漫画の食事シーンの台詞を見事に長々と唱えてから、腹から声を出して
「いただきます!」
と叫んでいた。問題がないか見回っていた林先生も半ば呆れながら、早く食え、と笑っていた。私も思わず笑ってしまい、緊張も次第にほぐれた。
「ほんとあいつくっだらねーよな」
片桐はそう笑いながら玉子焼きを頬張った。
「おい。くだらねーとはなんだよ」
十数メートル先にいたのにも関わらず、上野が口を尖らせた。
「食べ物にきちんと感謝しろって母ちゃんに習わなかったのか」
わざとらしく真面目ぶってそう言う上野に、片桐は背を向けた。私は一瞬、片桐は本当に上野を嫌っているのではないかと不安になったが、彼の顔を見てそうではないとわかり、安心した。どうやら男子高校生同士のやりとりは、時々つっけんどんなところがあるのかもしれない。
「おい!無視かよ」
上野が遠くからそう叫んでいたが、片桐は背中越しに片手をひらひらさせるだけだった。そこで挫けないのが上野リョウだ。お弁当を持ったまま、彼はこちらにやって来た。そしてまるで反抗期の息子に向き合う父親のような雰囲気で、片桐の前に腰かけた。
「片桐、ちょっと話をしようか」
「もう腹減って腹減って。早く食べよー」
片桐はお弁当を膝に乗せながら後ろに反り返って座っていた。班員全員が準備を終えると、片桐はぱちんと手を合わせて号令をかけた。
「いただきます」
いただきます、と班員も復唱した。倉庫内のあちらこちらでも号令が聞こえてくる。相変わらず、上野の班だけは一味違った。彼は有名な漫画の食事シーンの台詞を見事に長々と唱えてから、腹から声を出して
「いただきます!」
と叫んでいた。問題がないか見回っていた林先生も半ば呆れながら、早く食え、と笑っていた。私も思わず笑ってしまい、緊張も次第にほぐれた。
「ほんとあいつくっだらねーよな」
片桐はそう笑いながら玉子焼きを頬張った。
「おい。くだらねーとはなんだよ」
十数メートル先にいたのにも関わらず、上野が口を尖らせた。
「食べ物にきちんと感謝しろって母ちゃんに習わなかったのか」
わざとらしく真面目ぶってそう言う上野に、片桐は背を向けた。私は一瞬、片桐は本当に上野を嫌っているのではないかと不安になったが、彼の顔を見てそうではないとわかり、安心した。どうやら男子高校生同士のやりとりは、時々つっけんどんなところがあるのかもしれない。
「おい!無視かよ」
上野が遠くからそう叫んでいたが、片桐は背中越しに片手をひらひらさせるだけだった。そこで挫けないのが上野リョウだ。お弁当を持ったまま、彼はこちらにやって来た。そしてまるで反抗期の息子に向き合う父親のような雰囲気で、片桐の前に腰かけた。
「片桐、ちょっと話をしようか」