スーパーのすぐ目の前にある公園のベンチに並んで座って、2人でアイスを食べる。

「・・・おいしい?」
「うん、おいしい。」

溶け始めてしまったアイスにかじりつく男の子は、涙は止まっており、さきほどより表情も明るくなっていた。

「お買い物、誰と一緒に来たの?」
「・・・ぼくひとり。」
「ひとり!?」

私の声に男の子が驚いて肩をすくませる。慌てて謝れば男の子は少し俯いて。

「ままがね、ちいちゃんのミルクが無くなっちゃったって言ってて。ぼくお兄ちゃんだから、1人で買ってきてあげようと思ったんだ。」

男の子によると、忙しそうなお母さんの代わりにちいちゃん(おそらく妹)用のミルクを買ってきてあげよう、と何も言わず家を出てきたらしい。しかし持ってきた自分のお金では当然足りず、帰ろうと思ったが道が分からなくなってしまい。

「いつもお買い物はここに来るの?」
「うん。いつもおうちからままと歩いてくるんだよ。」

なるほど。つまり家からここまで遠いわけではなく、このくらいの年齢の子が1人で来れる距離だという事だ。黙って出てきたのなら迎えに来てくれる可能性は低いし、小さい妹がいるというのだから、母親も探すのが大変だろう。うーん、どうしたものか。
男の子の声が聞こえなくなった事に気づいて横を向けば、彼はまた瞳に涙をためていて。

「まま・・・」

何故だろう。その姿を見ていたら、すごく胸が苦しくなった。私もこんな風に、母親を思って涙を流したことがあった気がする。あれはいつの事だろう。思考が過去にトリップしてしまう前に、男の子が私の袖を強く握りしめたのを感じて現実へと引き戻された。

「よし!」

そう声に出してから、男の子の手を取って立ち上がる。

「お姉ちゃんと一緒にままの所に帰ろう!」
「・・・どうやって?」
「一緒に道探してみようよ!どんな建物があったかとか、覚えてる?」
「・・・うん、ちょっとだけ。」
「じゃあそこから見つけに行こう!」

不安そうに私を見あげる彼の頬に両手を当てて、目線と同じ高さにかがんだ。

「大丈夫だよ。お姉ちゃんが一緒に探してあげるから。」
「・・・ほんと?」
「本当。絶対大丈夫だから。ほら、行こう!」
「・・・うん!」

私の言葉にやっと笑顔を見せた男の子。その事に安心しつつ、彼の言葉を頼りに家までの帰り道を探し始めたのだった。



「あ!あそこ!みたことある!」
「どこ?あの大きい建物?」
「そう!あのながいやつ!」

そういうなり男の子、たっくん(とママに呼ばれているらしい)は私の手を引っ張って走り出す。元気を出したたっくんはよく話す明るい子だった。スーパーの近くを歩いているうちに、徐々に家までの道のりも思い出してきたようだ。たっくんに手をひかれるままに進んでいけば、急に立ち止まる。目の前に見えていたのは二手の分かれ道。

「どうしたの?」
「・・・これ、どっちかわかんない。」

キョロキョロと辺りを見回したたっくんだが、やはり思い出せないのか視線を落とす。

「大丈夫!両方行ってみればいいんだよ。1回間違えてもまだ戻ればいいんだからさ!」
「・・・うん。」

私の言葉に小さく頷く彼。しかしまた不安になったしまったのか、私の服の袖をぎゅっと握りしめていて。まだこんなに小さいのだ、お母さんと会えない不安はとても大きいのだろう。
たっくんの気持ちを想像するとまた胸が苦しくなる。自分自身そんな経験はないはずなのだが、なぜか鮮明に苦しさを感じて。

「・・っ・・あ!!」

この感情は何なのだろう、と考えを巡らせていた私は不意のたっくんの大声に現実に引き戻される。彼の視線を辿れば、そこにはベービーカーを押す女の人の姿が。まだ20代だろうか。とても若く見えるその女性は、たっくんを見つけると目を大きく見開いた。・・・もしかして。

「たっくん!!」

女性の下へ駆け寄ったたっくんはその胸に飛び込む。彼女もしっかりと彼を抱きしめ返す。

「ままっ・・!」

やはり。彼女がたっくんのお母さんなんだろう。ベビーカーの中では小さな女の子がスヤスヤと眠っている。きっとあの子がたっくんの小さな妹、ちいちゃんだ。