それからまた時が進んで、徐々に奈月の記憶も崩れ始めた。なんとか奈月をこの世界に繋ぎ止めようと、彼女が矛盾を追求するのを阻んだ。何度も曖昧な言葉を重ねて、嘘を重ねてぎりぎりでこの世界を繋いだ。少しでも何かを追求すれば、簡単に全てが崩れてしまう事は分かっていて。それでも必死に嘘を重ねた。奈月に本当の事を気付かせたくなかった。
それでも、やはり。過去を変えることなんて出来ないんだ。
奈月は、全てに気付いてしまった。
きっと彼女は海にいると思った。俺も向かおうとして、でも、足を止める。雨野さんの言葉を思い出す。未来は変えられない。本当だったら俺は絶対に海にいっちゃいけない。分かってる、分かってる。でも、でも。
ポケットから振動を感じて、スマホを開いた。聞こえてきたのは大好きな人の声で、それだけで胸が苦しくなる。
俺は、1人で真っ青な空を見上げていた。
海には、行かなかった。奈月が選んだ事で、奈月が決めた道だ。俺の贖罪で、奈月の覚悟だ。行ってはダメだと思った。何を言ってるんだ彼女を抱きしめに行ってやれと、それが正解だと何度も心の中で叫んだけど、でも、でも、でも。行ってはダメだ。ダメなんだ。悲しくて苦しくて虚しくて世界の全部が憎くて悔しくて、自分の太ももを叩きながら歯を食いしばった。そんな俺とは対照的に、奈月の声はとても穏やかだった。
俺の謝罪を遮って、奈月は思い出を楽しそうに語る。千里の話、みんなで海に行った話、クリスマスの話。すべてを話し終えた彼女は、言うのだ。
「全部全部、要のおかげだよ。」
電話越しでも彼女が笑っているのが分かった。堪えきれずに涙が溢れ出す。何言ってんだよ。俺のおかげなんかじゃないだろ。俺は、奈月のことを守れなかった。最後まで一緒にいることが出来なかった。何も、何も出来なかったのに。
「ありがとう。」
「大切な人に出会えて、私は幸せだった。」
そんな言葉、言わないでくれ。
「・・・奈月、まって、俺やっぱ、」
「駄目だよ要。」
「でも!!」
「絶対に。来ないで。お願い。」
苦しかった。彼女を抱きしめることはおろかそばに行くことすら出来ない。何も出来ない変わりに涙だけがポツポツと地面に吸い込まれていく。何もかもが切なくて切なくて堪らなかった。
涙と、吐息と、後悔と、愛しさと。
「・・・奈月。」
震える声で彼女の名前を呼んで、
そして、一言、ずっとずっと、伝えたかった言葉を紡ぐ。
「・・・ずっと好きだよ、これからも。」
人間は欲張りだ。
もう一度会えるならそれだけで十分、なんて。ただ自分に言い聞かせてただけだった。過去は変えられない、そんなの当たり前だと理解しているはずなのに。どうしても駄目だった。俺はやっぱり、奈月と一緒にいたい。こんなにも大切な人と、どうして離れる事ができるんだろう。
最後に、奈月は初めてわがままを言った。初めて、彼女の心の奥深くが見えた気がした。
『私の好きだったものを、要もずっと好きでいてほしい。』
海も、青も、ちょっと変な趣味の雑貨も、あんこも、全部全部好きだ、奈月が好きなものは全部好きだ。そんなのは、ずっと前からだ、馬鹿。
溢れた涙は止まらない。すすり泣きはやがて嗚咽の混じる号泣に変わる。電話越しの波音が徐々に大きく聞こえて、俺の嗚咽をかき消した。
世界が揺らいでいくのが分かった。奈月の涙と俺の涙が混ざりあって、世界は徐々に色を変えていく。目の前に広がって見えたのは、青い青い海の色だった。
それでも、やはり。過去を変えることなんて出来ないんだ。
奈月は、全てに気付いてしまった。
きっと彼女は海にいると思った。俺も向かおうとして、でも、足を止める。雨野さんの言葉を思い出す。未来は変えられない。本当だったら俺は絶対に海にいっちゃいけない。分かってる、分かってる。でも、でも。
ポケットから振動を感じて、スマホを開いた。聞こえてきたのは大好きな人の声で、それだけで胸が苦しくなる。
俺は、1人で真っ青な空を見上げていた。
海には、行かなかった。奈月が選んだ事で、奈月が決めた道だ。俺の贖罪で、奈月の覚悟だ。行ってはダメだと思った。何を言ってるんだ彼女を抱きしめに行ってやれと、それが正解だと何度も心の中で叫んだけど、でも、でも、でも。行ってはダメだ。ダメなんだ。悲しくて苦しくて虚しくて世界の全部が憎くて悔しくて、自分の太ももを叩きながら歯を食いしばった。そんな俺とは対照的に、奈月の声はとても穏やかだった。
俺の謝罪を遮って、奈月は思い出を楽しそうに語る。千里の話、みんなで海に行った話、クリスマスの話。すべてを話し終えた彼女は、言うのだ。
「全部全部、要のおかげだよ。」
電話越しでも彼女が笑っているのが分かった。堪えきれずに涙が溢れ出す。何言ってんだよ。俺のおかげなんかじゃないだろ。俺は、奈月のことを守れなかった。最後まで一緒にいることが出来なかった。何も、何も出来なかったのに。
「ありがとう。」
「大切な人に出会えて、私は幸せだった。」
そんな言葉、言わないでくれ。
「・・・奈月、まって、俺やっぱ、」
「駄目だよ要。」
「でも!!」
「絶対に。来ないで。お願い。」
苦しかった。彼女を抱きしめることはおろかそばに行くことすら出来ない。何も出来ない変わりに涙だけがポツポツと地面に吸い込まれていく。何もかもが切なくて切なくて堪らなかった。
涙と、吐息と、後悔と、愛しさと。
「・・・奈月。」
震える声で彼女の名前を呼んで、
そして、一言、ずっとずっと、伝えたかった言葉を紡ぐ。
「・・・ずっと好きだよ、これからも。」
人間は欲張りだ。
もう一度会えるならそれだけで十分、なんて。ただ自分に言い聞かせてただけだった。過去は変えられない、そんなの当たり前だと理解しているはずなのに。どうしても駄目だった。俺はやっぱり、奈月と一緒にいたい。こんなにも大切な人と、どうして離れる事ができるんだろう。
最後に、奈月は初めてわがままを言った。初めて、彼女の心の奥深くが見えた気がした。
『私の好きだったものを、要もずっと好きでいてほしい。』
海も、青も、ちょっと変な趣味の雑貨も、あんこも、全部全部好きだ、奈月が好きなものは全部好きだ。そんなのは、ずっと前からだ、馬鹿。
溢れた涙は止まらない。すすり泣きはやがて嗚咽の混じる号泣に変わる。電話越しの波音が徐々に大きく聞こえて、俺の嗚咽をかき消した。
世界が揺らいでいくのが分かった。奈月の涙と俺の涙が混ざりあって、世界は徐々に色を変えていく。目の前に広がって見えたのは、青い青い海の色だった。

