昨日は3月のこの時期には珍しい大雪で、夕方からシンシンと雪が降っていた。その反動かのように今日は朝から清々しい晴れ模様で、窓から差し込む光を浴びていい日になりそうだなあなんて呑気に欠伸をしていた。
まだ春休み中で、だらだらと家の中で過ごしていた。そんな俺の耳にバタバタと階段を駆け上がる音が聞こえてきて、何事かと焦って飛び起きれば同時にに母が青白い顔でドアを開いた。
窓から入り込む明るい光、廊下から流れ込んできた冷たい空気、お昼ご飯であろう焼きそばの匂い、全て鮮明に覚えている。
奈月ちゃんが、海で。
感じたことは鮮明に覚えているのに、母がなんて言ったかは全然覚えていなかった。でも慌てて布団から降りてスマホを掴んで家を出た。
奈月は昨日の夜から家に帰っていなかったらしい。父親はそれに気付かなかった。俺も、全然知らなかった。春休みに入ってから、顔を合わせていなかった。
大雪の中、奈月は海へ行った。計画的なのか、衝動的なのかは分からない。分からないけど、彼女は冷たい海の中にいた。そこで見つかった。それは、事実だった。
後日行われたお葬式に、抜け殻のまま参加した。葬儀にはたくさんの人が参加し、そして皆、泣いていた。彼女は愛されていたのだ。うるせえ、そんなこと俺がいちばん知っている。
葬儀が終わってもなかなかその場から動けない俺に、後ろから声がかかる。
「・・・要くん。」
そこに立っていた千里の目は真っ赤だった。いつもの元気な姿からは想像できないほど、やつれていて。彼女は、私のせいだと泣いた。
「奈月が何か抱えてるって、なんとなく分かってたんだ。」
そう言ってボロボロと大粒の涙をこぼす。
「でも話してくれるまで待とうって。それまでは気づかないフリしてようって。奈月は、こんなに苦しんでたのに・・・っ・・・。」
彼女は最後まで言葉を紡ぐ事ができずに、そのままその場に座り込んだ。なにも言葉をかける事が出来なくて、座り込む彼女の背中をさする。
・・・千里はなにも悪くない。奈月は千里のことを本当に信頼していた。千里と出会ったから奈月は少し変わったのだ。笑顔も増えた。彼女に出会っていなかったら、奈月のあんなに楽しそうな笑顔は見れなかったかもしれない。家の事も、腕の事も、奈月は周りに知られるのをとても嫌がっていた。だから、千里は悪くない。千里のせいなはずがない。
・・・でも、でも俺は?奈月の家の事も知っていた、小さ頃からずっと一緒にいた、それなのに、結局奈月のために何もしてやれなかった。もっと出来る事があったんじゃないか、奈月が嫌がっても大人の力を借りるべきだったんじゃないか、俺が側にいる事で奈月の力になれるなんてただの思い上がりだったんじゃないか、俺のせいで、奈月は、俺の、せいで。そう考え始めると他の事は何も頭に入ってこない。すすり泣く千里の背中をさすりながら、しばらくその場に留まり続けた。
奈月がいない。その事実は、あまりにも重すぎた。
お葬式で見かけた奈月の父親は泣いていた。ボロボロと涙を流していて、意味がわからなかった。なんでお前が泣くんだよ、誰のせいで、こんな事に。
「・・・どういうつもりだよ。」
気づけば俺は、奈月の父親のもとへ向かっていた。彼の前に立って震える声を絞り出す。俺の声に気づいて顔を上げた彼は、俺の記憶の中の昔の姿とはかけ離れていた。全体的に細くなった体とこけた頬、肌は青白くて目に輝きはない。
「何やってんだよ。」
彼は少し驚いたように目を開いてから、首を傾げた。その目は真っ赤に腫れていた。
「・・・要くん?久しぶりだね、」
「そんな事どうでもいいんだよ。子供に手を上げるなんてしていいことじゃないだろ。」
「おいおい、急にどうしたんだい。」
「奈月から聞いてんだよ!!しらばっくれんなよ!」
思わず声を荒らげてしまった俺を、不思議そうに見つめる。
「確かに叩いてしまった事はあったが、何をそんな小さい頃の事を。あれは躾の一環だし、加減も当然していたよ。」
「そういう問題じゃないだろ!!」
「ちゃんと奈月のタメになってただろう。あんなにいい子に育ったのに、なんでこんな目に合わなきゃいけないんだ・・・。」
本気でそう思っている顔で、彼はそう言って再び顔を覆って泣き出した。言葉を失ってしまった。本気で言ってるんだこの人は、正しい躾だったと思ってるんだ。嗚咽を上げて膝をつく彼に俺はもう何も言うことが出来なかった。なんだそれ、なんだこれ。
目頭があつくなる。体が震えて、無意識に拳に力が入った。でもそれをどこにぶつければいいのかが分からない。呆然と奈月の父親を見つめながら、立ちすくむ事しか出来なかった。
まだ春休み中で、だらだらと家の中で過ごしていた。そんな俺の耳にバタバタと階段を駆け上がる音が聞こえてきて、何事かと焦って飛び起きれば同時にに母が青白い顔でドアを開いた。
窓から入り込む明るい光、廊下から流れ込んできた冷たい空気、お昼ご飯であろう焼きそばの匂い、全て鮮明に覚えている。
奈月ちゃんが、海で。
感じたことは鮮明に覚えているのに、母がなんて言ったかは全然覚えていなかった。でも慌てて布団から降りてスマホを掴んで家を出た。
奈月は昨日の夜から家に帰っていなかったらしい。父親はそれに気付かなかった。俺も、全然知らなかった。春休みに入ってから、顔を合わせていなかった。
大雪の中、奈月は海へ行った。計画的なのか、衝動的なのかは分からない。分からないけど、彼女は冷たい海の中にいた。そこで見つかった。それは、事実だった。
後日行われたお葬式に、抜け殻のまま参加した。葬儀にはたくさんの人が参加し、そして皆、泣いていた。彼女は愛されていたのだ。うるせえ、そんなこと俺がいちばん知っている。
葬儀が終わってもなかなかその場から動けない俺に、後ろから声がかかる。
「・・・要くん。」
そこに立っていた千里の目は真っ赤だった。いつもの元気な姿からは想像できないほど、やつれていて。彼女は、私のせいだと泣いた。
「奈月が何か抱えてるって、なんとなく分かってたんだ。」
そう言ってボロボロと大粒の涙をこぼす。
「でも話してくれるまで待とうって。それまでは気づかないフリしてようって。奈月は、こんなに苦しんでたのに・・・っ・・・。」
彼女は最後まで言葉を紡ぐ事ができずに、そのままその場に座り込んだ。なにも言葉をかける事が出来なくて、座り込む彼女の背中をさする。
・・・千里はなにも悪くない。奈月は千里のことを本当に信頼していた。千里と出会ったから奈月は少し変わったのだ。笑顔も増えた。彼女に出会っていなかったら、奈月のあんなに楽しそうな笑顔は見れなかったかもしれない。家の事も、腕の事も、奈月は周りに知られるのをとても嫌がっていた。だから、千里は悪くない。千里のせいなはずがない。
・・・でも、でも俺は?奈月の家の事も知っていた、小さ頃からずっと一緒にいた、それなのに、結局奈月のために何もしてやれなかった。もっと出来る事があったんじゃないか、奈月が嫌がっても大人の力を借りるべきだったんじゃないか、俺が側にいる事で奈月の力になれるなんてただの思い上がりだったんじゃないか、俺のせいで、奈月は、俺の、せいで。そう考え始めると他の事は何も頭に入ってこない。すすり泣く千里の背中をさすりながら、しばらくその場に留まり続けた。
奈月がいない。その事実は、あまりにも重すぎた。
お葬式で見かけた奈月の父親は泣いていた。ボロボロと涙を流していて、意味がわからなかった。なんでお前が泣くんだよ、誰のせいで、こんな事に。
「・・・どういうつもりだよ。」
気づけば俺は、奈月の父親のもとへ向かっていた。彼の前に立って震える声を絞り出す。俺の声に気づいて顔を上げた彼は、俺の記憶の中の昔の姿とはかけ離れていた。全体的に細くなった体とこけた頬、肌は青白くて目に輝きはない。
「何やってんだよ。」
彼は少し驚いたように目を開いてから、首を傾げた。その目は真っ赤に腫れていた。
「・・・要くん?久しぶりだね、」
「そんな事どうでもいいんだよ。子供に手を上げるなんてしていいことじゃないだろ。」
「おいおい、急にどうしたんだい。」
「奈月から聞いてんだよ!!しらばっくれんなよ!」
思わず声を荒らげてしまった俺を、不思議そうに見つめる。
「確かに叩いてしまった事はあったが、何をそんな小さい頃の事を。あれは躾の一環だし、加減も当然していたよ。」
「そういう問題じゃないだろ!!」
「ちゃんと奈月のタメになってただろう。あんなにいい子に育ったのに、なんでこんな目に合わなきゃいけないんだ・・・。」
本気でそう思っている顔で、彼はそう言って再び顔を覆って泣き出した。言葉を失ってしまった。本気で言ってるんだこの人は、正しい躾だったと思ってるんだ。嗚咽を上げて膝をつく彼に俺はもう何も言うことが出来なかった。なんだそれ、なんだこれ。
目頭があつくなる。体が震えて、無意識に拳に力が入った。でもそれをどこにぶつければいいのかが分からない。呆然と奈月の父親を見つめながら、立ちすくむ事しか出来なかった。

