そばにあを

「打ち上げしませんか!」

放課後の教室。唐突にそんなことを言い出した神谷くんが手に持っていたのは4枚のチケットだった。

「植物園?」
「そう。姉ちゃんからもらったの。」

またもや神谷姉!ご厚意に大感謝。チケットを見れば温室植物園、の文字が見えた。・・・へえ、そんなのあるんだ。ストーブを焚いていても寒さを感じる今の季節だが、どうやら「熱帯の植物」をテーマに温室の中で夏の花を見る事が出来るらしい。

「テストも終わったし楽しい事しようよ。」
「いいね!大賛成!」

神谷くんの言葉に千里も手を挙げて、私も要も大きく頷く。植物園なんて行った事はあるだろうか。いや、きっとない。初めての事に胸が高鳴って、小さくチケットを胸に当てた。



「わ~、あったかい。」
「そりゃそうでしょ。」

温室だもん、と当然のように言う要。いや当然なんだけど。当然なんだけどもさ、言い方ってものがあるよね??私のジトッとした視線に気づいたのか気づいていないのか、あ、ソフトクリーム売ってる、なんて言って売店を指さす。・・・いや絶対気づいてるな。気づいている上でソフトクリームなんかで機嫌が直ると思われているな。私は小学生か。

「チョコレート!!!」
「はいはい。」

私の言葉に要はふっと笑って、売店の方へと歩いていく。もちろん食べますとも、ええ。売店の近くのベンチに腰かけて、植物を眺めながらソフトクリームを食べる。千里と神谷くんはどんどん奥へと進んでいってしまい、気付けば別行動になってしまった。
初めての植物園はとても新鮮だ。外は冬の気温なのに、景色なのに、この中はまるで熱帯。不思議な感覚に胸が高鳴る。

「ねえなにこれ。」
「ハチの絵。」
「なんでハチ?ていうかこれほんとにハチ?」

先にアイスを食べ終わった要は、暇なのか植物園のチケットに落書きを始めていた。そういえば要の絵ってあんまりたことなかったけど…うーん、独創的。

「奈月のにも書いてあげるよ。」
「あー、いや、大丈夫、うん、遠慮しとく。」

そう返事をする前に要は既にペンを走らせていた。じゃあ聞くな。
ヘンテコなハチの絵が追加されたチケットを握りしめて、再び園の中を散歩する。

「あ、図鑑あるよ。」
「ほんとだ。」

途中で要が植物図鑑を見つけて、2人で立ち止まる。植物の名前と、特徴と、そして。

「へえ、花言葉も書いてある。」

そこには花言葉が書いてあるページもあった。興味が沸いて図鑑を覗き込む。サネカヅラ、シクラメン、ジャスミン・・・。へえ、ジャスミンにも花言葉あるんだ。知らなかった。五十音順のページをペラペラとめくっていくと、見たことのある赤い花のページで手が止まる。
・・・リコリス。

「って、彼岸花のことなんだよね?」
「正確には違うみたいだけどね。俺も詳しくはしらないな。」

写真に写る真っ赤な彼岸花。やはりその花には不吉なイメージがあった。しかし文章を読めば、その花言葉は不吉なものだけではなくて。

「色によって違うんだ。」

要も驚いたように声を上げる。その言葉に私も頷いて、書いてある文字を追う。

【赤・・・情熱、悲しい思い出、あきらめ、再会

 白・・・また会う日を楽しみに、思うはあなた一人

 黄色・・・追走、深い思いやりの心、悲しい思い出】

書かれている花言葉は、私が知らないものばっかりだった。不吉なイメージしかなかったのが、一転する。要がどこの文字を追っていたのかは分からない。分からないけど。

「・・・綺麗だね。」

図鑑に目を落としたままの要は、呟くようにそう言う。私も頷いて、しばらく2人で写真を眺めた。…思うのはあなた一人、なんて。こんな素敵な花言葉もあるんだなあ。
テストも無事終わり、植物園にも行けて、何よりもちゃんとみんなで進級できることが嬉しくて。一人でにやけていたら皆に頭を心配されしまった。やばいやばい。これでしばらくは安心だ、何も心配する事はない。そう、思っていたのだけれど。

そんな嬉しさは、一瞬にして吹き飛んでしまった。