「すみません。たいやき2つください。クリームとあんこで。」
「はいよ~。」
買い物の途中で美味しそうなたいやき屋さんを見つけた私達。長時間歩いて足も疲れていたため、休憩がてらたいやきを食べる事にした。
「はい。」
「ありがとう。」
近くにあったベンチに座って、2人でたいやきを食べる。焼きたてでとっても温かくて、心も一緒にじんわりと温度が上がる。
「・・・幸せ。」
「奈月の幸せは150円で買えんのか、安。」
「今たいやきのおいしさに浸ってるから黙ってて。」
「うーわ、冷た。涙出てくる。」
「どの口が言うんだか。」
ケラケラと笑いながら、涙が出てくる、なんて言って要は涙を拭うふりをする。その後も何が面白かったのか要はずっと笑っていた。
「もーらい!」
そんな彼の隙を狙ってクリームのたいやきを一口かじった。
「うわ!それ一口ってレベルじゃないだろ!」
「おいし~!!」
「・・・俺があんこ食べれないのしってるくせに。」
要が悲しそうに声を上げる。ええもちろん、知っての犯行ですとも。あんこも好きだけどクリームも美味しいな。今度はクリームにしてみよう。なんて考えていれば、要がいまだにいじけている事に気が付いた。
「まあまあ、そういじけんなって。」
「いじけてねえよ。」
「そういう日もあるよ。」
「いや誰のせいだと思ってんだ。」
ポカッ、と軽く頭を叩かれる。大げさに痛がってみれば、彼はまた笑いだして。少し休憩するつもりだったはずが、気付けばかなりの時間が過ぎていた。買い物の続きをしようとベンチから立ちあがり、また2人で歩き出した。
人混みに揉まれつつなんとかプレゼントを買い終えれば、時刻は既に午後5時を回っていた。
「この後どうしようねえ。」
私たちはショッピングモールを出て、クリスマスに浮かれる街中を歩いていた。欠伸をしながらそう問う私の言葉に、要の足がピタッと止まる。
「ん?どうした?」
「・・・いや、別に。どうしようね。」
なぜか言葉を詰まらせながら、どこか行きたいところある?と私の顔を覗き込む。
「・・・海。」
「え?」
「海行こう!」
満面の笑みを浮かべる私とは対照的に、要は怪訝そうな顔で私を見た。いやそうだよね。だって海って。この時間から?この時期に?寒くね?って気持ちだと思うんだけどそんなのは知らない(おい)。
「奈月、ほんとにいくの?」
「行こうよ!電車で行けばそんなに時間もかからないし。」
「そういう問題じゃなくない??」
それに、と私が言葉を続ければ彼は呆れたように視線を泳がす。
「行ってみたいじゃん、夜の海!」
「それは・・・ちょっと分かる。」
「でしょ〜絶対綺麗だもん。」
・・・夜の海を砂浜まで見になんて行ったことはない。だから、行ってみたい気持ちがあるのだ。けれど同時に少しの不安に襲われる。夏に皆で行った時。海を見た瞬間に感じた、あの気持ち悪さを思い出してしまったのだ。
「ほら!」
「わっ!」
急に止まってしまった私の腕を、要が不意に引っ張る。思わず転びそうになって間抜けな声を上げた私を見て、要はお腹を抱えて笑いはじめた。小学生か。・・・まったくもう。隣で楽しそうに笑っている要を見たら、この人と一緒なら大丈夫かな、なんて思って、さっきまでの不安はどこかへと消えてしまった。
2人で駅までの道のりを歩く。辺りは既に暗く、周りのお店の前に出ている小さなイルミネーションが明かりを灯していた。吹き付ける風は冷たくて、手先の感覚が麻痺する。
「・・・鼻真っ赤。」
「だって寒いし。」
「トナカイみたい。」
「ああそうですか。」
「でも体型はどっちかっていうとサンタさんだ・・・っ・・・!お前割と本気で叩いただろ!!」
「うるさいばーか。」
要の背中を思い切り叩けば、いてー!と大袈裟に肩をさする。・・・正直かなりいい音がして自分でも驚いた。ごめん要。ただその言葉は一生忘れん。
「・・・要?」
あと少しで駅に到着するというところで、急に要が立ち止まる。どうしたの、とい問う前に振り返った彼の顔がさきほどまでとは別人のようで、思わず息を飲んでしまった。
苦しそうに歪めた要は、何かを言おうとしてやめる。そんなことを何回か繰り返しているから、思わず彼の手を握った。
あまりに冷たい要の手に力を込めて、大丈夫だよ、と声をかける。なにが大丈夫なのかは分からなかったけど、でも何か言わないと彼が壊れてしまう気がしたのだ。要は、何かと戦っていた。
「・・・やっぱり。」
「ん?」
そこまで言って、やはり彼はまた口を噤む。その顔が泣きそうになっているようにも見えて、私ははまた要の手をさすることしか出来なかった。
「・・・具合悪い?大丈夫?」
「・・・大丈夫、ごめん。」
「今日はもう帰ろうか、ね、そうしよう。」
そう言った私の手を今度は要が強く握る。驚いて彼の顔を見れば、要は少しうつむいた。
「・・・奈月が。」
「ん?」
「奈月が行きたいなら、俺も行きたい。」
「いや、そんな無理しないで、」
「ごめん俺は全然大丈夫。なんか一瞬気持ち悪くなっちゃって、変だったみたい。食べ過ぎかな。」
俯いてから顔を上げた彼は、いつもと同じだった。その変わりようがあまりにも突然で、思わず戸惑ってしまう。さっきまでの苦しい表情は見えなくて、でも心無しか顔色は少し青白い気がした。
「ほんとに無理しないで。」
「してないよ。もう今は全然元気だ、ほら、行こう。」
「要、本当に、」
「いいから。」
そう言って笑って駆け出すから焦って彼の後に着いていく。要が意外と本気で走るから負けたくなくて、駅に着く頃には髪の毛がボサボサだった。笑いながら要が私の前髪を直してくれる。
「そんな急に走って大丈夫?気持ち悪さは?」
「ぜーんぜん大丈夫。奈月と違って体力あるし。バレーで突き指したり水泳で足つったりリレーでコケたりしないし、」
「ねえ殴っていい???」
元気そうでなによりですけどね??
これが空元気なのかなんなのか分からずに要の事を眺めてみるけど、今は本当に気分は悪くないように見えた。先程の苦しそうな顔を思い出してから、今の要のからかうような笑顔を見て少し安心してしまう。
ねえ、要。
「わたし、海に行きたいの。」
「うん、聞いた。」
「海に、要とだから、一緒に行きたいの。」
ここ大事なポイントだからね、とおどけてみたけど、少し恥ずかしくなって俯いしまう。からかわれると思っていたのに要の声が聞こえてこなくて、伏し目がちに彼の表情を覗き見る。
「・・・ばーか。」
私の言葉に、彼はそう言って泣きそうに顔をゆがめて笑った。
電車に揺られること数十分。駅のホームに降り立った途端に磯の香りと湿った空気が流れ込んできて、海の存在を強く感じる。
「はやくはやく!!」
「はいはい。」
駅から歩いて数分。すぐに見えてきた海に、胸が高鳴った。そこには心配していた気持ち悪さなんて全くなかった。
「・・・綺麗。」
そこは、別世界だった。
星空が水面に反射して、海はキラキラと輝いていて。灯りなんてほとんどないはずなのに、そこはとても眩しく見えて。私の目の前で、ゆっくりと揺れる。それ以上何も口にすることが出来なくて、海をじっと見つめる。ずっと、この景色を見ていたい。自然と目が惹きつけられていた。夜の海にはやはり私達しかいなくて、波の音だけが暗闇の中で反響する。
見始めてからどのくらい経ったのだろう。しばらく夜の海に見とれていた私は、視線を感じて横を向く。ぱちっ、と要と目があった。
「はいよ~。」
買い物の途中で美味しそうなたいやき屋さんを見つけた私達。長時間歩いて足も疲れていたため、休憩がてらたいやきを食べる事にした。
「はい。」
「ありがとう。」
近くにあったベンチに座って、2人でたいやきを食べる。焼きたてでとっても温かくて、心も一緒にじんわりと温度が上がる。
「・・・幸せ。」
「奈月の幸せは150円で買えんのか、安。」
「今たいやきのおいしさに浸ってるから黙ってて。」
「うーわ、冷た。涙出てくる。」
「どの口が言うんだか。」
ケラケラと笑いながら、涙が出てくる、なんて言って要は涙を拭うふりをする。その後も何が面白かったのか要はずっと笑っていた。
「もーらい!」
そんな彼の隙を狙ってクリームのたいやきを一口かじった。
「うわ!それ一口ってレベルじゃないだろ!」
「おいし~!!」
「・・・俺があんこ食べれないのしってるくせに。」
要が悲しそうに声を上げる。ええもちろん、知っての犯行ですとも。あんこも好きだけどクリームも美味しいな。今度はクリームにしてみよう。なんて考えていれば、要がいまだにいじけている事に気が付いた。
「まあまあ、そういじけんなって。」
「いじけてねえよ。」
「そういう日もあるよ。」
「いや誰のせいだと思ってんだ。」
ポカッ、と軽く頭を叩かれる。大げさに痛がってみれば、彼はまた笑いだして。少し休憩するつもりだったはずが、気付けばかなりの時間が過ぎていた。買い物の続きをしようとベンチから立ちあがり、また2人で歩き出した。
人混みに揉まれつつなんとかプレゼントを買い終えれば、時刻は既に午後5時を回っていた。
「この後どうしようねえ。」
私たちはショッピングモールを出て、クリスマスに浮かれる街中を歩いていた。欠伸をしながらそう問う私の言葉に、要の足がピタッと止まる。
「ん?どうした?」
「・・・いや、別に。どうしようね。」
なぜか言葉を詰まらせながら、どこか行きたいところある?と私の顔を覗き込む。
「・・・海。」
「え?」
「海行こう!」
満面の笑みを浮かべる私とは対照的に、要は怪訝そうな顔で私を見た。いやそうだよね。だって海って。この時間から?この時期に?寒くね?って気持ちだと思うんだけどそんなのは知らない(おい)。
「奈月、ほんとにいくの?」
「行こうよ!電車で行けばそんなに時間もかからないし。」
「そういう問題じゃなくない??」
それに、と私が言葉を続ければ彼は呆れたように視線を泳がす。
「行ってみたいじゃん、夜の海!」
「それは・・・ちょっと分かる。」
「でしょ〜絶対綺麗だもん。」
・・・夜の海を砂浜まで見になんて行ったことはない。だから、行ってみたい気持ちがあるのだ。けれど同時に少しの不安に襲われる。夏に皆で行った時。海を見た瞬間に感じた、あの気持ち悪さを思い出してしまったのだ。
「ほら!」
「わっ!」
急に止まってしまった私の腕を、要が不意に引っ張る。思わず転びそうになって間抜けな声を上げた私を見て、要はお腹を抱えて笑いはじめた。小学生か。・・・まったくもう。隣で楽しそうに笑っている要を見たら、この人と一緒なら大丈夫かな、なんて思って、さっきまでの不安はどこかへと消えてしまった。
2人で駅までの道のりを歩く。辺りは既に暗く、周りのお店の前に出ている小さなイルミネーションが明かりを灯していた。吹き付ける風は冷たくて、手先の感覚が麻痺する。
「・・・鼻真っ赤。」
「だって寒いし。」
「トナカイみたい。」
「ああそうですか。」
「でも体型はどっちかっていうとサンタさんだ・・・っ・・・!お前割と本気で叩いただろ!!」
「うるさいばーか。」
要の背中を思い切り叩けば、いてー!と大袈裟に肩をさする。・・・正直かなりいい音がして自分でも驚いた。ごめん要。ただその言葉は一生忘れん。
「・・・要?」
あと少しで駅に到着するというところで、急に要が立ち止まる。どうしたの、とい問う前に振り返った彼の顔がさきほどまでとは別人のようで、思わず息を飲んでしまった。
苦しそうに歪めた要は、何かを言おうとしてやめる。そんなことを何回か繰り返しているから、思わず彼の手を握った。
あまりに冷たい要の手に力を込めて、大丈夫だよ、と声をかける。なにが大丈夫なのかは分からなかったけど、でも何か言わないと彼が壊れてしまう気がしたのだ。要は、何かと戦っていた。
「・・・やっぱり。」
「ん?」
そこまで言って、やはり彼はまた口を噤む。その顔が泣きそうになっているようにも見えて、私ははまた要の手をさすることしか出来なかった。
「・・・具合悪い?大丈夫?」
「・・・大丈夫、ごめん。」
「今日はもう帰ろうか、ね、そうしよう。」
そう言った私の手を今度は要が強く握る。驚いて彼の顔を見れば、要は少しうつむいた。
「・・・奈月が。」
「ん?」
「奈月が行きたいなら、俺も行きたい。」
「いや、そんな無理しないで、」
「ごめん俺は全然大丈夫。なんか一瞬気持ち悪くなっちゃって、変だったみたい。食べ過ぎかな。」
俯いてから顔を上げた彼は、いつもと同じだった。その変わりようがあまりにも突然で、思わず戸惑ってしまう。さっきまでの苦しい表情は見えなくて、でも心無しか顔色は少し青白い気がした。
「ほんとに無理しないで。」
「してないよ。もう今は全然元気だ、ほら、行こう。」
「要、本当に、」
「いいから。」
そう言って笑って駆け出すから焦って彼の後に着いていく。要が意外と本気で走るから負けたくなくて、駅に着く頃には髪の毛がボサボサだった。笑いながら要が私の前髪を直してくれる。
「そんな急に走って大丈夫?気持ち悪さは?」
「ぜーんぜん大丈夫。奈月と違って体力あるし。バレーで突き指したり水泳で足つったりリレーでコケたりしないし、」
「ねえ殴っていい???」
元気そうでなによりですけどね??
これが空元気なのかなんなのか分からずに要の事を眺めてみるけど、今は本当に気分は悪くないように見えた。先程の苦しそうな顔を思い出してから、今の要のからかうような笑顔を見て少し安心してしまう。
ねえ、要。
「わたし、海に行きたいの。」
「うん、聞いた。」
「海に、要とだから、一緒に行きたいの。」
ここ大事なポイントだからね、とおどけてみたけど、少し恥ずかしくなって俯いしまう。からかわれると思っていたのに要の声が聞こえてこなくて、伏し目がちに彼の表情を覗き見る。
「・・・ばーか。」
私の言葉に、彼はそう言って泣きそうに顔をゆがめて笑った。
電車に揺られること数十分。駅のホームに降り立った途端に磯の香りと湿った空気が流れ込んできて、海の存在を強く感じる。
「はやくはやく!!」
「はいはい。」
駅から歩いて数分。すぐに見えてきた海に、胸が高鳴った。そこには心配していた気持ち悪さなんて全くなかった。
「・・・綺麗。」
そこは、別世界だった。
星空が水面に反射して、海はキラキラと輝いていて。灯りなんてほとんどないはずなのに、そこはとても眩しく見えて。私の目の前で、ゆっくりと揺れる。それ以上何も口にすることが出来なくて、海をじっと見つめる。ずっと、この景色を見ていたい。自然と目が惹きつけられていた。夜の海にはやはり私達しかいなくて、波の音だけが暗闇の中で反響する。
見始めてからどのくらい経ったのだろう。しばらく夜の海に見とれていた私は、視線を感じて横を向く。ぱちっ、と要と目があった。

