「ねえ見て!この服可愛い!」

ピンクのセーターを手に取った由香ちゃんは、鏡の前で自分に合わせ、どう?と楽しそうにはしゃぐ。

「ほんとだ~!由香ちゃんに似合いそう!」
「ほんとー?買っちゃおうかな~」

そして私の言葉に照れたように笑う。

「由香サイズあるの?」
「なっ!あるでしょ!そんなにちっちゃくないもん!」
「ここ児童服売り場じゃないけど大丈夫そう?」

にやにやしながら由香ちゃんをからかう千里。そんな千里の言葉にさっきの笑顔から一転、ふくれっ面になって。2人のやり取りに思わず笑ってしまって私も睨まれた、でもその顔も可愛い。

横山くんと由香ちゃんの問題は解決しないまま、既に数日が経過した。結局2人はまだちゃんと話すことが出来ていないみたいで、連絡もとっていないようだ。徐々に元気を取り戻してきている由香ちゃんだが、時々、笑顔がぎこちない時があって。

「由香、お昼何食べたい?」
「うーん。・・・麺!麺系がいい!」
「あ!じゃあ新しくできたパスタ屋さんいかない?駅前の!」
「いいね、決まり!」

そんな由香ちゃんを元気づけたくて、今日は3人でショッピングに来ている。少しでも由香ちゃんの気分転換になればいいな、なんて思ったのだ。



「あちゃー。」

隣で千里がため息をつく。駅前のパスタ屋さんはオープンしたてだという事もあり、予想以上の列が出来ていた。

「並ぶ?」
「うーん、どうするか。」

迷いに迷った私たちは結局並ぶのを諦め、近くのパン屋さんに寄ってから公園でピクニックをすることにした。芝生に腰かけ、3人で青空を眺める。

「夏も終わっちゃったんだねえ。」
「そうだね。」

秋晴れの心地よい空の下、3人でまったりと話しながらお昼を食べる。今日は気温も低くなくて、通り過ぎる風が心地良い。

「・・・ありがとう。」

会話の途中。ふいに由香ちゃんにそう言われて、私も千里も由香ちゃんの顔を見つめる。

「2人がいなかったら、ずっと部屋の中で泣いてたかも。」

そういって由香ちゃんは悪戯っ子のように舌を出して笑う。

「千里ちゃんと奈月ちゃんのおかげで、私は笑ってられるよ。」

その言葉に胸がいっぱいになって、思わず由香ちゃんに抱き着いてしまった私。由香ちゃんは驚いた顔をして、そして、いつものように笑う。

「わ!奈月ちゃん珍しく大胆だね~。私の事そんな好き!?ねえねえ!」
「うるさい!ばか!大好き!」
「ツンデレ発動しすぎだよもう」
「ねえ私の事忘れてイチャイチャしすぎ。」
「何千里ちゃん嫉妬!?あー、モテ女は辛いですな~」
「調子乗んな。」

千里のデコピンを食らっていたたっ、と由香ちゃんは額をおさえる。そこから始まる2人の小競り合いにまた吹き出してしまった。お昼を食べた後も服を見たりゲームセンターに行ったり、楽しい時間はあっという間に過ぎていった。
外に出れば辺りはすでに暗くなり始めていて。

「そろそろ帰ろっか。」
「だね。あー、楽しかった!」

少しでも明るいうちに帰ろう、と3人で歩き始めた、のだが。

「・・・ん?」

視線を上げた時、ふいに視界に移りこんだ男の人。目を離すことが出来ず見つめてしまう。

「奈月?どうした?」

不思議そうに私を見る千里と由香ちゃん。考えるよりも先に、口から嘘がこぼれる。

「・・・ごめん、私さっきのお店に忘れ物しちゃったかも。先に帰ってて!」
「それなら私たちも一緒に行くよ?」
「ううん、大丈夫!今日は楽しかったありがとう!」
「ちょ!奈月!?」

突然走り出した私の背後から、戸惑ったような2人の声が聞こえる。ごめん、2人とも。そのまま見かけた背中を追いかけて走り続ける。

「・・・いた!」

先ほど見かけた男の人が歩いて行った道を辿っていけば、前方に彼の姿をとらえることが出来た。見たことあるリュック。ちらりと見えた横顔は、やはり知っている顔。

間違いない、あれは横山くんだ。

別に女の人と一緒に歩いていたわけでもない、ただ1人で買い物に来ただけかもしれない。むしろその可能性の方が高いだろう。けれど、なぜか今彼の後を追えば。知りたい事が知れる気がしたのだ。