「鈴香さん!これ可愛い!」
「本当ね!あ、でもこっちの緑も可愛い?」

そろそろ冬物欲しかったのよね、と言いながら服を物色する鈴香さん。ショッピングを楽しんでいるうちに、さっきの怒りは収まったようだった。

「なっちゃん、このマフラーどっちがいいと思う?」
「えー、私はこっちのが好きですかねえ・・・。」
「そう!そうなのよね、こっちも可愛いの!どっちも捨てがたいわあ。」

マフラーを両手に持ってはあ、とため息をつく。
結局私が好きだと言った方を購入し、そのまま他のお店も一緒に歩いて眺めた。

「・・・鈴香さん、なんか疲れてます?」
「・・・・・そう?」

買い物中、時々いつもは見せない疲れの表情が見えて、少し不安になる。
そういえば最近、前よりも帰りの時間が遅い。帰ってきても食欲がないと夕飯を残すこともあって、仕事が大変なのだろうか。

「・・・そうね、少し疲れてるのかも。」

そう言って少し困ったように笑った鈴香さん。怒るときは真剣に怒るし、笑うときは大口で本当に楽しそうに笑う。そんな鈴香さんのこういう表情はとても珍しい気がした。

「・・・ほら、私こんな感じの性格じゃない?だから結構思ったこと口に出しちゃってね。」

ポツポツ、と鈴香さんの口から本音がこぼれ落ちる。最近何かハッキリ言ってしまった記憶があるのだろう、苦笑いをして言葉を続ける。

「だから揉め事起こしちゃうことも多いのよ。・・・それで、少し疲れちゃったみたい。」

おどけたようにそう言った鈴香さんだけど、やはりその表情には疲れが見えていた。笑顔が、痛々しい。
なんて励ますのが正解なのだろう、私の言葉なんて鈴香さんの心に響くのだろうか、色々な考えが頭の中を巡ったけれど。

「って、ごめんね、なっちゃんにこんな話して!」
「・・・私は。」
「ん?」

「私は、鈴香さんのそういう所が好きですよ。」

口からは、なんの偽りもない本心がこぼれた。
嘘がつけなくて、素直で、いつもガハガハ笑ってて、朝が苦手で、時々暴力的だけど、 でもそんな鈴香さんが好きだ。

「むしろそういう鈴香さんじゃなきゃ嫌だっていうか、そういう所が鈴香さんのいいとこ・・・って!ちょっと!」
「なっちゃん!!!」

話している途中で鈴香さんに抱き着かれて頭をわしゃわしゃとされる。ちょ、やめ、髪の毛が・・・!!
暴れるも鈴香さんの腕から逃れる事は出来ず。抵抗をやめてしばらくなすがままにされた、お店で抱き合う女2人、周りの人の目が非常に気になる、なんだこれ。
しばらくして私から離れた鈴香さんは、満面の笑みを浮かべていた。

「・・・ありがとう。」
「・・・・・・何ですか、急に。」

急に落ち着いた声でそう言われるから、何だか照れ臭くて、私も笑顔になってしまう。

「さ!そろそろ合流しに行きましょう!」
「そうですね。拓海さんはどうするんですか?」
「うーん、とりあえず3発かな。」
「・・・グーで?」
「もちろん!!」

あ、まだ怒りは収まっていなかったみたいだ。拓海さん、ファイト。