「そういえば花火やるのにライターもマッチもないね。」
「「・・・あ。」」
神谷くんの言葉に皆で顔を見合わせる。持ってきた野菜もお肉も大体終わって、焼きそばを食べながらそろそろ片付けて花火をしようと話していた私達。花火は海に来る途中でちゃんと買ってきたのに。火をつけるものの存在を忘れていた。
「完全に忘れてた・・・。」
「あ、私買ってこようか?」
すぐ近くにコンビニがあった事を思い出し、財布をもって立ち上がる。
「俺もついてくよ。」
「大丈夫。コンビニ近いし。ゆっくり食べてて。」
「奈月ちゃん一人でいけまちゅか~」
「千里あとで覚えときなよ」
正面に座っていた千里にデコピンをしてから、コンビニへと歩き出した私。あとでって言ったのに~!と後ろから千里の叫び声が聞こえる。・・・まあ気にしない気にしない。
道なりに歩きはじめれば、コンビニを少し先に発見することが出来た。早く目的のものを買って皆の下へ戻ろう、と少し歩く速度を速めた、のだが。
「わっ!」
足元にあった段差の存在を忘れ、バランスを崩す。世界がスローモーションになったように感じて、わたし転ぶんだ、なんて冷静に思った。
「っと!」
しかし予想していた衝撃は襲ってこなかった。誰かが前から私の体を支えてくれたのだ。
「何やってんの。大丈夫?」
呆れた声で私の体を起こす。
「・・・ありがとう。惚れそう。」
「思う存分惚れなさい。」
「でもこういうのってさ。知らないイケメンが支えてくれるのが王道じゃない?」
「何あんたそんなに転びたかったのいいよ私が転ばしてあげ」
「嘘ですごめんなさい」
私の言葉にハハッ、と乾いた声で笑った彼女。千里さん怖いです、目が笑ってないです。どうやら飲み物が終わってしまったらしく、追加で買い物を頼まれたようだ。
「いい感じに暗くなってきたね。」
「ね。でももうこんな時間なんだね。」
「そう考えると寂しくなるな~」
そんなことを話しながらコンビニへの道を歩く。
「ねえ奈月。」
「なにー?」
「・・・やっぱなんでもない。」
「え、なにそれ?」
「気にしないで。」
急に名前を呼ばれて横を向いたけど、辺りが暗くなってきていて千里の表情は見えなくて。少し躊躇ったように言葉をためた後、なんでもないと千里は口を噤む。
何それ気になる!と千里をつつけば、何でもないってば馬鹿、と軽く背中を叩かれる。
「要くんとやっぱラブラブだなって思っただけ。」
「だーかーらー。要とはそういうのじゃないってば!」
「どうだか~」
今度はニヤニヤしながら千里が私をつつく。話しながら歩けばコンビニはすぐで、買い物を終え皆の下へとジュースを抱えて2人で歩いた。
「あ、そういえばさ。要くん大丈夫だった?」
「え、何が?」
「なにも聞いてない?」
少し眉を下げてそう聞かれるけど、思い当たる節が全くない。聞いてないよ、と答えれば千里は首を傾げる。
「なんか今日のこと最初に誘った時さ、すっっごい微妙な顔してて。」
「そうなの?」
「うん。海嫌いなのかなあって思うくらい渋ってたよ。」
「えー、そんな話聞いた事無いけどなあ。」
要の嫌いなものは勉強くらいだ、と思っていたけど違ったのだろうか。こんな事言うのもあれだけど、と千里が声を小さくする。
「ここの海なんかいわく付きなんじゃないかって不安になって調べちゃったもん。」
「なにそれ怖い。やめてよ。」
「私だって怖いわ。まあ結局何も出てこなかったけどねえ。でもそのくらい不安そうな顔してたよ、なんか。」
要の不安そうな顔があまり想像出来なくて、へえ、と浮ついた相槌を打ってしまった。私の前ではそんな素振り見せなかったし、何より今日は一日とても楽しそうだった。千里もそう思っていたのだろう、それ以上その話が続くことはなく、コンビニで買った炭酸を開けて2人で飲みながら歩いた。
「奈月!これすごい!」
「ほんとだ!!」
無事にライターとキャンドルも買うことができ、始まった手持ち花火。楽しい旅行もいよいよ終盤だ。
「ちょっ!これめっちゃ勢い良いんだけど!!」
「おいこっち向けんなよ!」
「ねえ私もそれやりたーい!」
勢いよく吹き出すカラフルな明かりと、匂いと、夏を思いっきり感じて皆のテンションも自然と上がっていた。
もちろん私も例外ではなくて、花火の両手持ちなんかしちゃって気づけば時間はあっという間に過ぎていた。
「もう花火も終わっちゃうね。」
横山くんの言葉で残りの花火に目を向ければ、残りは線香花火のみ。もう終わっちゃうのか、と途端に寂しくなる。
「・・・これは誰が一番長くできるか勝負だな。」
「その勝負乗った。」
神谷くんの言葉にいち早く反応したのは千里。
「よっしゃ、何かける?」
「無難にジュースとか・・・じゃつまんないよねえ。」
そして何をかけるか真剣に話しはじめる2人。
「あー、私は勝負参加しなくていいや。」
「俺も。」
同時に辞退したのは私と要だった。要と2人で顔を見合わせて笑う。…なんせ運動部2人の勝負への執着は半端じゃない。負けず嫌いの千里と同じく負けず嫌いの神谷くんの勝負は、恐ろしいくらいにガチなのだ。横を見れば横山くんと由香ちゃんは既に思わずにやけてしまいそうなムードの中にいて、邪魔をしないようにと要の方を向く。
「はい。」
「ありがと。」
要に線香花火を手渡して2人で砂浜にしゃがみこんだ。
「・・・さて、なにかけるか。」
「なに結局私たちも賭け事するの。」
「もちろん。」
「・・・・・・私が勝ったらお風呂洗い当番一週間要ね。」
「うわ地味に嫌なやつ。」
ロウソクに火をつけながら要が嫌そうに顔をしかめる。
「要は?」
「んー。じゃあ俺が勝ったら、鈴香さんにそろそろ彼氏できましたか、って聞いてみて。」
「え、なにその爆死確実な罰ゲーム。」
鈴香さんの怒った顔が頭に浮かんで笑いがこぼれる。きっとそんな事聞こうもんなら容赦ないパンチが飛んでくるだろう。そんな事を話している間にロウソクに火がついて、2人でせーので線香花火に点火する。
パチパチと徐々に激しくなる線香花火を見つめていれば、急に終わりを強く感じて、切なくなった。
「・・・帰りたくないなあ。」
思わずそんな言葉が溢れて、要も笑って頷く。1回目は2人同時に落ちてしまったため、2本目を取り出して火をつける。
「奈月。」
出来るだけ揺らさないように、と花火に集中していた私。要の呼びかけに顔を上げれば、その顔は真剣そのもので。
「・・・来年も。」
・・・まるで一世一代の告白でもするように、要はゆっくりと言葉を紡ぐ。
「来年も、皆で来よう。」
「な・・・にそれ」
余りにも要が真剣な顔でそう言うものだから、思わず吹き出してしまう。
「・・・なんで笑ってんだよ。」
「だって・・・!顔が面白くて・・・!」
「失礼すぎんだろおい。」
いいよもう、と少し拗ねたように要が言うからそれもまた楽しくて。ひときしり笑った後、要の名前を呼ぶ。
「要。」
「・・・なに?」
「来年も、皆で来ようね。」
さっきの要の言葉を繰り返す。
要は少し驚いたような顔になってから、嬉しそうに、でも何だか泣きそうに笑った。なんだか照れくさくなって、もう一度線香花火に目を戻す。横山くんと由香ちゃんが楽しそうに話している声が聞こえてきて、おそらく負けたのであろう千里の悔しそうな声と神谷くんの笑い声も聞こえてきて、隣では要が楽しそうに線香花火を見つめる。なんだか胸がいっぱいになって、そして少し、泣きそうになった。
これから先、何があっても。
私はきっと今日の事を、忘れないだろう。
「「・・・あ。」」
神谷くんの言葉に皆で顔を見合わせる。持ってきた野菜もお肉も大体終わって、焼きそばを食べながらそろそろ片付けて花火をしようと話していた私達。花火は海に来る途中でちゃんと買ってきたのに。火をつけるものの存在を忘れていた。
「完全に忘れてた・・・。」
「あ、私買ってこようか?」
すぐ近くにコンビニがあった事を思い出し、財布をもって立ち上がる。
「俺もついてくよ。」
「大丈夫。コンビニ近いし。ゆっくり食べてて。」
「奈月ちゃん一人でいけまちゅか~」
「千里あとで覚えときなよ」
正面に座っていた千里にデコピンをしてから、コンビニへと歩き出した私。あとでって言ったのに~!と後ろから千里の叫び声が聞こえる。・・・まあ気にしない気にしない。
道なりに歩きはじめれば、コンビニを少し先に発見することが出来た。早く目的のものを買って皆の下へ戻ろう、と少し歩く速度を速めた、のだが。
「わっ!」
足元にあった段差の存在を忘れ、バランスを崩す。世界がスローモーションになったように感じて、わたし転ぶんだ、なんて冷静に思った。
「っと!」
しかし予想していた衝撃は襲ってこなかった。誰かが前から私の体を支えてくれたのだ。
「何やってんの。大丈夫?」
呆れた声で私の体を起こす。
「・・・ありがとう。惚れそう。」
「思う存分惚れなさい。」
「でもこういうのってさ。知らないイケメンが支えてくれるのが王道じゃない?」
「何あんたそんなに転びたかったのいいよ私が転ばしてあげ」
「嘘ですごめんなさい」
私の言葉にハハッ、と乾いた声で笑った彼女。千里さん怖いです、目が笑ってないです。どうやら飲み物が終わってしまったらしく、追加で買い物を頼まれたようだ。
「いい感じに暗くなってきたね。」
「ね。でももうこんな時間なんだね。」
「そう考えると寂しくなるな~」
そんなことを話しながらコンビニへの道を歩く。
「ねえ奈月。」
「なにー?」
「・・・やっぱなんでもない。」
「え、なにそれ?」
「気にしないで。」
急に名前を呼ばれて横を向いたけど、辺りが暗くなってきていて千里の表情は見えなくて。少し躊躇ったように言葉をためた後、なんでもないと千里は口を噤む。
何それ気になる!と千里をつつけば、何でもないってば馬鹿、と軽く背中を叩かれる。
「要くんとやっぱラブラブだなって思っただけ。」
「だーかーらー。要とはそういうのじゃないってば!」
「どうだか~」
今度はニヤニヤしながら千里が私をつつく。話しながら歩けばコンビニはすぐで、買い物を終え皆の下へとジュースを抱えて2人で歩いた。
「あ、そういえばさ。要くん大丈夫だった?」
「え、何が?」
「なにも聞いてない?」
少し眉を下げてそう聞かれるけど、思い当たる節が全くない。聞いてないよ、と答えれば千里は首を傾げる。
「なんか今日のこと最初に誘った時さ、すっっごい微妙な顔してて。」
「そうなの?」
「うん。海嫌いなのかなあって思うくらい渋ってたよ。」
「えー、そんな話聞いた事無いけどなあ。」
要の嫌いなものは勉強くらいだ、と思っていたけど違ったのだろうか。こんな事言うのもあれだけど、と千里が声を小さくする。
「ここの海なんかいわく付きなんじゃないかって不安になって調べちゃったもん。」
「なにそれ怖い。やめてよ。」
「私だって怖いわ。まあ結局何も出てこなかったけどねえ。でもそのくらい不安そうな顔してたよ、なんか。」
要の不安そうな顔があまり想像出来なくて、へえ、と浮ついた相槌を打ってしまった。私の前ではそんな素振り見せなかったし、何より今日は一日とても楽しそうだった。千里もそう思っていたのだろう、それ以上その話が続くことはなく、コンビニで買った炭酸を開けて2人で飲みながら歩いた。
「奈月!これすごい!」
「ほんとだ!!」
無事にライターとキャンドルも買うことができ、始まった手持ち花火。楽しい旅行もいよいよ終盤だ。
「ちょっ!これめっちゃ勢い良いんだけど!!」
「おいこっち向けんなよ!」
「ねえ私もそれやりたーい!」
勢いよく吹き出すカラフルな明かりと、匂いと、夏を思いっきり感じて皆のテンションも自然と上がっていた。
もちろん私も例外ではなくて、花火の両手持ちなんかしちゃって気づけば時間はあっという間に過ぎていた。
「もう花火も終わっちゃうね。」
横山くんの言葉で残りの花火に目を向ければ、残りは線香花火のみ。もう終わっちゃうのか、と途端に寂しくなる。
「・・・これは誰が一番長くできるか勝負だな。」
「その勝負乗った。」
神谷くんの言葉にいち早く反応したのは千里。
「よっしゃ、何かける?」
「無難にジュースとか・・・じゃつまんないよねえ。」
そして何をかけるか真剣に話しはじめる2人。
「あー、私は勝負参加しなくていいや。」
「俺も。」
同時に辞退したのは私と要だった。要と2人で顔を見合わせて笑う。…なんせ運動部2人の勝負への執着は半端じゃない。負けず嫌いの千里と同じく負けず嫌いの神谷くんの勝負は、恐ろしいくらいにガチなのだ。横を見れば横山くんと由香ちゃんは既に思わずにやけてしまいそうなムードの中にいて、邪魔をしないようにと要の方を向く。
「はい。」
「ありがと。」
要に線香花火を手渡して2人で砂浜にしゃがみこんだ。
「・・・さて、なにかけるか。」
「なに結局私たちも賭け事するの。」
「もちろん。」
「・・・・・・私が勝ったらお風呂洗い当番一週間要ね。」
「うわ地味に嫌なやつ。」
ロウソクに火をつけながら要が嫌そうに顔をしかめる。
「要は?」
「んー。じゃあ俺が勝ったら、鈴香さんにそろそろ彼氏できましたか、って聞いてみて。」
「え、なにその爆死確実な罰ゲーム。」
鈴香さんの怒った顔が頭に浮かんで笑いがこぼれる。きっとそんな事聞こうもんなら容赦ないパンチが飛んでくるだろう。そんな事を話している間にロウソクに火がついて、2人でせーので線香花火に点火する。
パチパチと徐々に激しくなる線香花火を見つめていれば、急に終わりを強く感じて、切なくなった。
「・・・帰りたくないなあ。」
思わずそんな言葉が溢れて、要も笑って頷く。1回目は2人同時に落ちてしまったため、2本目を取り出して火をつける。
「奈月。」
出来るだけ揺らさないように、と花火に集中していた私。要の呼びかけに顔を上げれば、その顔は真剣そのもので。
「・・・来年も。」
・・・まるで一世一代の告白でもするように、要はゆっくりと言葉を紡ぐ。
「来年も、皆で来よう。」
「な・・・にそれ」
余りにも要が真剣な顔でそう言うものだから、思わず吹き出してしまう。
「・・・なんで笑ってんだよ。」
「だって・・・!顔が面白くて・・・!」
「失礼すぎんだろおい。」
いいよもう、と少し拗ねたように要が言うからそれもまた楽しくて。ひときしり笑った後、要の名前を呼ぶ。
「要。」
「・・・なに?」
「来年も、皆で来ようね。」
さっきの要の言葉を繰り返す。
要は少し驚いたような顔になってから、嬉しそうに、でも何だか泣きそうに笑った。なんだか照れくさくなって、もう一度線香花火に目を戻す。横山くんと由香ちゃんが楽しそうに話している声が聞こえてきて、おそらく負けたのであろう千里の悔しそうな声と神谷くんの笑い声も聞こえてきて、隣では要が楽しそうに線香花火を見つめる。なんだか胸がいっぱいになって、そして少し、泣きそうになった。
これから先、何があっても。
私はきっと今日の事を、忘れないだろう。

