またあの場所で、笑う君に届けたい。

✼最終章 君に届ける舞台風✼


文化祭当日。体育館の裏で円陣を組む。
緊張で心臓がが張り裂けそうだ。


「皆、いよいよ今日だね…!!全力出しきって最高の舞台にするよ!!!」

「おー!!」

「演劇部による公演です。題名は「燃ゆる」「奏音」です」


大丈夫。たくさん練習したから。自主練だって、やれば実る。

 *

そろそろ最後の告白シーンだ。
私の大きな出番。決意を胸に舞台袖から出ていく。一秒後にライトがつく。
観客席の後ろの真ん中の方には木々飛くんと緑石くんの姿があった。
緑石くん、そうゆうことだよね。


『あの…!私、勇斗くんのことが好きです!』


好きです。木々飛くんの笑顔が。
弾けるように笑う君のことが。
好きです。その瞳が。
真っ直ぐできれいな瞳で周りを見る君のことが。
好きです。その優しさが。
すべてを包み込むような優しい君が。
好きです。何にでも夢中になれるその姿が。
前をまっすぐ突き進む君のことが。
悪いところなんて見つけられないくらい、木々飛くんのことが好きです。


『だから…私と付き合ってください…!』


私の思いをすべて詰め込んで君に届けます。
演技という方法で。私にできる最大限の方法で。


『俺なんかで、よければ…!!』


拍手が響き渡る。
今年の舞台は大成功に終わることができた。
たくさんの気持ちを背負っている。
奇跡が重なってできた、最高の演技。
ガラス瓶の蓋を開けよう。
笑顔の涙が一筋伝う。照明のせいで光を反射していた。

 ✼

「夏孤、行きなよ」

演技が終わって疲れ果てている夏孤の肩をそっと触る。
暖かくて、私の大好きなぬくもり。
離したくないな。
不意にそう思ってしまった。


「でも…木々飛くんが好きなのは…」

「私は、夏弧が後悔しないと思う選択を取るのが一番だと思うよ」


そう言って笑顔を作る。
ほんと、何言ってるんだろう私。夏孤に後悔してほしくない。
でも、他のところへ行ってほしくない。


「うん…音緒、ありがとう」


夏孤は私に深く頭を下げてから人混みの中を走っていった。


「後悔しない選択、ね…それは誰よりも貴方に言えるんじゃないの?音緒ちゃん」


後ろに静波先輩が立っていた。私と同じく夏孤を見送るように玄関のほうを見ている。
その通りだ。多分私は、一生後悔する。
一生分の涙を枯らす。
でも。


「伝えなくていいの?」

「いいんです…」


いいんです。伝えなくて。伝えないほうがいいんです。
私の中で、一番後悔しない選択はこれだと思ったから。
後のことを考えて、伝えないという選択が一番いいと思ったから。
だって。


「だって、好きな人には幸せになって欲しいじゃないですか…」


夏孤が好き。どうしょうもなく好き。
そんなのとうの昔にわかってた。でも誰にも話さなかった。
夏弧に迷惑をかけたくないから。気を遣ってほしくないから。
私が我慢しなかったから、緑石くんの決意がむだになっちゃうから。
でも、本当は、話すことができなかった。望むならば、伝えたかった。
当たり前だよ。
この気持ちを伝えられたらどれだけ楽だったか。
でも、怖かった。夏弧に失望されるかもしれなくて、同性が好きなんて…
だから私はずっと夏孤にこの気持ちは伝えない。

そして、今日限りで終わりにする。


「好きな人には幸せに…ね…面倒見のいい貴方らしい答えね」


そう言って静波先輩は少し人が減った体育館の玄関を出ていった。
静波先輩が見えなくなるまでその背中を見届ける。
角に曲がって先輩がふっと消えると膝から下に力が入らなくなり、私はほとんど誰もいなくなった体育館にへたり込んだ。
その瞳からはぽとぽとと大きな涙が溢れている。
しょっぱくて、透明で、透き通った涙。
悲しい味のする、冷たい涙。


「これで良かったんだよ…夏孤には幸せでいてほしいから。私は夏孤と一緒に居られるだけで幸せ者だよ。だから、ばいばい。私の、本気の初恋」


二度と帰ってこないでね。

 ✼
静葉は音緒を優しく見ていた。


「よくがんばったね、音緒ちゃん」


大切だからこそ言わない。夏孤ちゃんのことを思ってるからこその行動。
恋ってこんなにも難しいものなのか。
私にも分かる日が来るのかな。
映画や舞台、小説みたいに上手くはいかない。



なんて理不尽な世の中なんだろう。
同性を好きになるなんて、おかしくない。おかしいなんて言われたら、私も諦めなくちゃいけなくなっちゃうよ。
頭に浮かんだのは日菜多の顔だった。



学校中を走り回って木々飛くんを探す。
しかし、人がたくさんいるのもあってかなかなか前に進めない。


「誰か探してるの?」


声に顔を上げる。えっ。


「木々飛くん…」


髪の毛が当たるくらいの距離感に木々飛くんの顔があった。


「あははっびっくりした?演技、めちゃくちゃ良かったよ!もう俺感動しちゃった。涙出そうになったよ。それで、誰探してるの?」

「木々飛くんだよ…」


そう言うと木々飛くんは驚いたように目を見開く。
そして、人気のない場所を探して私を連れてきてくれる。
大きな手で私の手首を引っ張って。
そこは書道室の前だった。
そうゆうところが良くない。もっと好きになっちゃうじゃん。


「どうしたの?」


ガラス瓶に詰め込んだ思いはコルクを開けて溢れていた。


「木々飛くんは、私の光です。公演は、木々飛くんは見に来てくれるっていうからがんばれた。木々飛くんのことが好きです。ここで初めて会ったときから、ずっと…!私と付き合ってくれませんか」


真っ直ぐに木々飛くんを見る。
緑石くんがしてくれたように。こうしたほうが思いは伝わるから。


「前先輩にに言われたんだよね。もっと周り見たほうがいいよって。例えばって大江さんの名前出されて。それで、大江さんのこと意識してたんだよね。大江さんは、
すごいね。あんな大きな舞台でハキハキ喋れて。俺惚れちゃったなーははっ…だからさ、俺からも頼んでいいかな?俺も大江さんのこと好きです。付き合ってくれませんか」


木々飛くんも真っ直ぐに目を見てくれる。
視線がバチッと合う。
澄んだその透明な瞳には私が映っている。


「おねがい、します」

「ねー泣かないでよー!」


私は、石橋を叩いても渡れないような性格だ。
そんな私があんな大きな舞台で演技をして、君の思いを伝えられたのは、皆の支えがあったからだ。
むりやり何かに挑戦しなくてもいい。
自分が疲れるなら、壊れそうなら無理しなくていい。
自分がもう大丈夫だと思えるくらい橋を立派にすればいい。
自分が決めたタイミングで向こう岸まで渡ればいい。
皆私を向こう岸で待っててくれる。
渡り終えたらみんなが温かく迎え入れてくれるから。
木々飛くんが近づいてきて笑う。
その笑顔は心からの笑顔だ。
辛いのに、無理して笑わなくてもいいんだ。
心の底からでる君の笑顔を待ってるから。
君の瞳に映る私は少しだけきれいに見えた。


「だってぇ…」


ガラス瓶から溢れたのは喜びの涙だった。


「おめでとう」


少し遠くで2つの声が重なった。
ふたりとも優しい笑顔で二人を見守っていた。
喜びの涙は、本当に美しい。