俺の愛を受け入れろ〜俺様御曹司の溺愛

俺は安定期に入るまで公表は避けようと思ったが、これからのことを考えると、東條と商店街の人達にはお世話になる事があるだろうと考え、報告することに決めた。

「東條、済まなかった」

「大丈夫です、珍しいですね、社長が午後から出社とは何かあったのですか」

「美希が妊娠した」

東條はビックリした表情で俺を覗き込んだ。

「本当ですか、おめでとうございます、早速記者会見を開きますか」

「いや、安定期に入るまで、この事は伏せておく、商店街の人達だけにはお世話になることもあるだろうから、報告しようと思ってる、もちろんお前にもな、これからも美希をよろしく頼む」

東條は感動したのか、涙を潤ませていた。

「かしこまりました」

俺は仕事が終わると、まず美希に連絡した。

「大丈夫か、仕事終わったからこれから商店街に報告に行ってくる、夕飯はなんでもいいよな」

「お疲れ様です、大丈夫です、よろしくお願いします」

俺は車で、商店街に向かった。

「おお、社長さん、こんな時間に珍しいなあ」

八百屋のご主人が挨拶してくれた。

「今日は報告がありまして、美希が妊娠したんです」

八百屋のご主人は目を見開いて驚いた表情を見せたが、すぐに満面の笑みに変わり「おめでとう」と言ってくれた。

「ありがとうございます、それで報告を兼ねて、夕飯のおかずを買いに来ました」

「そうかい、ちょっと待ってな」

八百屋のご主人は隣、またその隣と商店街を回り、美希の妊娠の報告と夕飯のおかずを調達してくれた。

「これを持っていきな、みんな喜んでるよ、改めて、美希ちゃんと来てくれ、ちょっとレンジで温めるといいよ」

「ありがとうございます、おいくらですか」

「いいから持っていきな、しばらくするとつわりが始まるから、食事の支度が出来ないだろうから、いつでもおかずを持っていくといいよ」

みんななんて心優しい人達ばかりなんだ、美希の言う通りだなと心が暖かくなる感じがした。

俺は美希の待つマンションへ急いだ。

「美希、ただいま、美希、美希」

美希は寝室で横になっていた。

「蓮さん、おかえりなさい」

「大丈夫か」

美希はちょっと顔色が良くないと感じた。

「東條に報告したら、ビックリしてたよ、でも喜んでくれてる、それから商店街の人達もおめでとうって言ってくれてたよ、つわりが落ち着いたら挨拶に行こうな」

「はい」

「おかず、代金いいからと貰ってきたよ、食べられそうか」

美希は身体を起こし、キッチンに移動してテーブルに腰を下ろした。

「少しだけ頂きます」

美希は既につわりが始まり、症状は重い感じだった。

美希に笑顔が無い。

俺はなるべく仕事を早く切り上げ、マンションへ急いだ。

休みの日、今日は気分がいいとの事で、商店街に行ってみることにした。

「美希ちゃん、おめでとう、つわりはどうだい」

商店街の八百屋のご主人が声をかけてくれた。

「ありがとうございます、ちょっとだけ大変です、でもいつも蓮さんが一緒にいてくれるので、嬉しいです」

「そうかい、それはよかった」

「今日はこれを持っていきな、お酢が効いてると食欲も湧くかもしれないからな」

「ありがとうございます」

そのうち、商店街の人達がみんな集まって来た。

「美希ちゃん、おめでとう、元気な赤ちゃん産むんだよ」

「皆さんありがとうございます、頑張ります」

「美希、そろそろ帰ろうか」

「はい」

二人で商店街を後にした。

それから程なくして、つわりも収まってきた。

安定期に入った為、鏑木美希さんご懐妊のニュースが流れた。

俺は方々からおめでとうとメッセージや電話を貰い、対応に追われた。



そんな矢先、鏑木建設会社の取り引き先のご令嬢が会社にやって来た。

昔から父親通しが付き合いがあり、ゆくゆくは二人を結婚させたいと話していたとの事だった。

俺の父親も相手方の父親も他界して、そんな話は立ち消えになっていたと思われた。

俺も結婚して美希の妊娠も公表したので、まさか恋人に振られたご令嬢が今更、当時の話を持ち出してくるなんて想像もつかない事だった。

今村不動産ご令嬢、今村麗子、二十三歳。

「蓮様、お久しぶりです、麗子です」

「ああ、麗子、久しぶり、親父の葬儀の時はありがとうな」

「いいえ、お役に立てなくてすみません」

「今日は仕事の事かな」

急に訪ねてきた彼女に俺は戸惑った。

はっきり言ってこのお嬢さんは苦手だ。

「麗子ね、恋人に振られたの、もう寂しくて、悲しくて、気分転換に、蓮様とデートしようと思って、いいでしょ、可愛い妹の頼み聞いて、ね、お願い」

このお嬢さんは万事この調子だ、まず自分を「麗子ね」と言う女は苦手だ。

それに俺はもう結婚してるし、父親になるのに、全くお構いなしなんだから困ったものだ。

取引先のお嬢さんだし、確かに妹みたいなもんだから、邪険にも出来ない。

まず、俺の悪いところは女性の頼みを断れないところだ。

まさか、美希に嫉妬させる為、うまくいけば、俺を奪おうと企んでいたことなど考えが及ばなかった。

俺もなぜこの時に二人で出かける事を拒まなかったのか、悔やんでも悔やみきれない。

仕事の帰りに食事をすることになった。

なるべく早めに切り上げて、美希の待つマンションへ帰りたかった。

間が悪いとはこのことだ、今日に限って、美希は気分がいいからと会社までやってきた。

ビルの出入り口から俺と麗子が出て来たところを、美希に見られた。

しかも、俺の腕に絡んでいたところを美希に見られたのだ。

元々、美希は自分がひとまわりも年上を気にしており、前回のモデルとの不倫騒動も大打撃を受けていた。

今回は二人で仲睦まじいところ、いや決して仲睦まじいわけでは無いが、第三者からはそう見える雰囲気だったのが俺としては大誤算だった。

しかも、その場で、怒って文句でも言う女だったらこんなに誤解が拗れる事はなかった。

美希はショックを受けて、隠れて、一人でマンションへ帰ったのだ。

俺は美希に誤解されたことも知らずにお嬢さんと食事に出かけてしまった。

美希がマンションに帰る途中にたまたま望月が美希を見かけ、声をかけた。

「こんばんは、鏑木美希さんですよね、俺は蓮の大学時代からの悪友で望月楓といいます」

私は蓮さんからアルバムを見せて貰った事があり、望月さんの事は知っていた。

「はじめまして、美希です、蓮さんからお話は聞いています、大親友だと」

「そうでしたか、それは光栄だな、大親友では無いんですけど、大悪友ってとこかな」

私はちょっと笑みを浮かべた。

でもその笑顔の裏に悲しい表情が隠れていた事を望月さんには見抜かれていた。

「体調は大丈夫ですか」

「はい、おかげさまで、だいぶつわりも収まって来ました」

「今日はどちらへ行かれるのですか、蓮の会社の方から来たんですよね、蓮と一緒ではないんですか」

「あ、あのう、先客がいたみたいで、私アポなしで来ちゃったんで、これから帰るところです」

「妊婦の奥様より大切な人は、アフター5ではいないですよね」

望月さんはスマホで蓮さんに連絡を入れた。

「望月、どうした」

「蓮、今誰といるんだ、美希ちゃんよりも大切な人って誰だ」

「美希より大切な人はいない、どう言う事だ」

私はその場に居た堪れず、望月さんから離れた。

「美希ちゃん、待って」

スマホは切れた。


「望月、おい」

俺は戸惑った、望月と美希が一緒にいるのか。

望月のスマホを鳴らした、応答はない。

美希のスマホを鳴らした、応答はない。

俺は麗子お嬢さんを置き去りにして、マンションに向かった。

その頃、私の後を望月さんが追ってきた。

「美希ちゃん、どこ行くの?」

望月さんに腕を掴まれ、引き止められた。

次の瞬間、お腹が痛くなり、私は救急車で、病院に運ばれた。

望月さんは彼に連絡してくれた。

彼は病院へ急いだ。

私は切迫流産になりかけたが、事なきを得た。

安静を余儀なくされ、しばらく入院することになった。

病院に駆けつけた俺は、望月を捕まえて事情を聞き出した。

「望月、どう言う事だ、なぜ美希とお前が一緒にいるんだ」

「そっくり、そのセリフお前に返すよ、お前こそ、美希ちゃんが会社に行った時誰と居たんだ、先客がいたと帰ろうとしていたんだぞ、美希ちゃんより大切な先客って誰だ」

「美希は俺の会社にきたのか」

「アポなしで来たら先客がいたから帰るところだと言っていた、美希ちゃんを泣かせるなら俺が美希ちゃんをもらう」

「美希は俺の妻だ、誰にも渡さない」

望月は俺の胸ぐらを掴み、言葉を荒げた。

「俺がなんでこんなにも怒ってるかわかるか、美希ちゃんは泣いていた、お前、女と一緒だっただろう」

俺は何も言い返せなかった。

「その女とはいつからだ」

「違う、誤解だ、鏑木建設会社と古くから付き合いのある今村不動産のご令嬢だ、妹みたいな存在で、恋人に振られたから食事に連れてってと頼まれて」

「お前の悪い癖だな、女性に頼まれると、断れない」

「反省するよ、済まなかった」

望月は大きなため息をついた。