俺は望月の名を借り、思い切って彼女の前に姿を現した。

「失礼ですが、藤城美希さんですよね」

彼女は振り向くと俺の顔を見て、軽く会釈をした。

「あのう、大変失礼ですが、どちらの望月さんでしょうか」

「あ、すみません、人違いでした」

「いえ、大丈夫ですよ」

俺はじっと彼女を見つめた。

彼女は恥ずかしそうに俯いた。

「あのう、この会社に藤城美希は私一人ですが、似た名前の方ならいますので、お呼びしましょうか」

そう言ってビルへ俺を誘導しようとした。

俺は慌てて「大丈夫です、俺の勘違いでした、失礼します」と言ってその場を後にした。

彼女はいつまでも俺の後ろ姿を見送ってくれていた。

その彼女の姿がずっと脳裏から離れなかった。


俺は望月を呼び出した。

「彼女に会った」

「えっ、親父さんの言いつけ破ったのか」

「いや、お前の名前を借りた」

「はあ?どう言う事だ」

望月はムッとした表情になった。

「お前の名前で彼女を呼び出した」

「親父さんの会社まで行ったのか」