程なくして俺は退院し、猛勉強を始めた。

でもその前にどうしても藤城美希の顔を見たかった。

親父の会社の受付で藤城美希を呼び出した。

「経理部の藤城美希さんとお会いしたいんですが……」

「失礼ですが、お名前をお願いします」

「望月楓です」

この時本名名乗る訳に行かず、望月の名前を拝借した。

「少々お待ち下さい」

「受付ですが、経理の藤城美希さんにお客様です、望月楓様とおっしゃる男性の方ですが」

「ただいま降りて参りますので」

俺は顔を見せるわけに行かず、ビルの外で隠れていた。

受付で何やら話をして、ビルの自動ドアが開き一人の女性が現れた。

俺は思っていた印象とは真逆の彼女の姿に呆然と立ち尽くした。

優秀な社員、大卒のエリート、三十五の独身。

全然違う、望月は三十五まで独身なら、嫌なタイプだと言っていたが、とんでもない。

優しい表情、三十五とは思えない可愛らしさ、控えめな雰囲気。

俺は一目で心惹かれた。

絶対に話してみたいと、強い欲求が俺を本気にさせた。