「また、怒られた、じゃあ帰るな、また来るよ」
「はい」
望月は蓮のマンションを後にした。
しばらくして、麗子が交通事故に遭い入院した。
望月は入院先の病院へ急いだ。
「麗子、大丈夫か」
この時望月の頭の中は真っ白になり、初めて麗子の存在を再認識させられた。
麗子への気持ちをはっきりわかった、失いたくない存在だと……
「楓、ごめんなさい、心配かけてしまって」
「心臓が止まるかと思ったよ、脅かすなよ」
「もう一つ、謝らないと」
望月は心当たりがない様子で、キョトンとした表情を見せた。
「楓が美希さんを好きなのは知っていました、私を蓮様から引き離そうと私に近づいた事も、でもどうしようもなく、楓に惹かれていく自分がいて、引き返せなかった、だからちょっと楓を困らせようとわがままをいっぱい言いました」
「麗子」
「本当に心配してくれた事がわかって、これからは楓の収入に見合った生活をします、すぐは無理かもしれないけど」
「ごめん、確かに麗子のわがままにはうんざりしていたのは事実だ、それに美希ちゃんに惹かれていたのも事実だ、でも麗子が事故にあったって聞いた時、麗子を失いたくないと思った、麗子を愛している自分に気づいた」
「楓、私赤ちゃんが欲しいです」
麗子は頬を真っ赤に染めて恥ずかしがった。
「そうだな、俺は子供をあやすの上手いぞ」
「そうですか、退院したら頑張りましょう」
麗子はニッコリ微笑んだ。
望月は蓮と連絡を取った、美希の悩みを伝えるためだ。
「蓮、どうだ、美希ちゃんの育児を手伝ってるか?」
「いや、なかなか俺に懐いてくれなくてな」
「それはお前の努力が足りないからだ、美希ちゃんは悩んでいたぞ」
「えっ、美希が?」
「ああ、手伝ってやれよ」
蓮はこの時、望月に嫉妬していた。
「美希はお前には悩みを打ち明けるんだな」
「はあ?何言ってるんだ、お前が聞いてやらないからだろ、お前は美希ちゃんに甘え過ぎだ」
「わかってるよ、そう言えば奥さんとはどうなった?」
望月は急に頭を下げた。
「どうしたんだ?」
「俺は美希ちゃんに惚れていた、だから麗子に近づいた」
「お前な」
蓮は望月の胸ぐらを掴み、殴りつけた。
「麗子を騙したのか」
望月は殴られた口元を押さえて「蓮、落ち着けよ」と痛そうな顔を蓮に向けた。
「落ち着いていられるか、お前な、麗子の気持ち考えたのか」
「おい、蓮、俺の妻を呼び捨てするな」
「俺の妻?よくも抜け抜けとそんな事が言えるな」
「言えるよ、今は麗子を愛していると大声で言える」
望月は自分の気持ちの変化を語り始めた。
「俺は蓮のように御曹司でもないし、社長でもない、雇われてるサラリーマンだ、実家も農家をやっているし、貧乏で苦労して育った、大学も奨学金で行ったんだからな、そこで蓮と知り合って、かれこれ、8年だよな、大学の時から彼女はいたが、奨学金で大学に行っている苦労を分かり合える女ばかりだった、でも麗子は苦労知らずのお嬢さん育ちで、まず食事に行くのだって、大変だった、高級レストランを調べて、予約取って、プレゼントも貰ったばかりのボーナスを叩いて買った、お前にはわからないだろう、
麗子との付き合いは、美希ちゃんとなら牛丼でも文句言わないだろうなんて比べちまう、情けないよ、全く、でも美希ちゃんが蓮と一緒に居たいのなら俺がライバルを排除するしかない、そう思ったんだ」
「それで麗子の、いやお前の奥さんの気持ちをお前に向かせるようにしてくれたってことか、でもさっき奥さんを愛していると言ったよな」
「ああ、言ってなかったんだが、美希ちゃんに会いに行った、蓮也はかわいいな、その時はっきり言われたよ、愛しているのはお前だって、それから麗子が怪我をして入院したんだ」
蓮は驚きの表情を見せた。
「麗子にも俺の本心はバレてた、だからわざとわがままを言って俺を困らせたそうだ、
でも麗子を失いたくないと思った気持ちは嘘じゃない事を告げると、俺の収入に見合った生活を頑張ると言ってくれた」
「そうか、よかったな」
「麗子が退院したら子作りに励むぞ、美希ちゃんの悩みはお前がその気になればすぐ解決する、頑張れよ」
「ああ、頑張ってみるよ」
蓮は望月に感謝していた。
「望月、俺は美希と蓮也を幸せにすると誓う、美希の悩みも解決する方向へと頑張るよ」
二人はこれから先も悪友でいようと誓ったのである。
間もなくして麗子は退院した。
しばらくリハビリのため、病院へ通う事になった。
「麗子、リハビリ行くときは、俺も仕事を休むから車で一緒に行くぞ」
「楓、無理しなくても大丈夫よ、私一人で行けるわ」
「何言ってるんだ、また事故に遭ったらどうするんだ、麗子が心配で仕方がない」
「ありがとう、楓、じゃあお言葉に甘えてお願いしようかな」
「ああ、そうしてくれ」
俺はこんなにも麗子の存在が愛おしいなんて、自分の気持ちに驚いている。
俺と麗子は今までベッドは別だった。
しかし、退院して間もなく、麗子が恥ずかしそうに俺に囁いた。
「今晩から楓のベッドで一緒に寝てもいい?」
それが何を意味するのか、俺にはわかっていた。
「赤ちゃんが欲しいです」と言っていた麗子。
俺もそろそろ、家族を増やす事も視野に入れないといけないと考えていた。
麗子を素直に純粋に抱きたいと思った。
今までは、美希ちゃんとどうこうなれるとは思ってはいなかったが、麗子を抱きたいと言う気持ちにはなれなかった。
この日の夜、俺は麗子を抱いた。
先にベッドの入っていた俺の元に麗子は入って来た。
「麗子」
キスを一つ麗子の唇に落とす。
麗子は甘い吐息を漏らした。
受け身だった麗子が俺の唇をチュッと吸って甘噛みした。
今まで感じた事がない感情が溢れて来た。
俺は麗子の首筋から鎖骨へ、そして胸の膨らみへと唇を移動させた。
キャミソールの上から、乳房を鷲掴みにして、麗子に身体を重ねた。
麗子は「ああ、あ、楓、キスして」と俺の顔を両手で挟み、唇を求めて来た。
堪らない感情が俺を支配した。
「麗子、麗子」
麗子とキスをして、思わず舌を割り入れた。
麗子はちょっとびっくりした様子を見せたが、すぐに舌を絡ませて来た。
お互いの舌が絡み合って、息が荒くなり、麗子のキャミソールを脱がせて、乳房が露わになり、俺は乳房を口に含んだ。
麗子は背中を退け反らせて、感じてくれていた。
麗子の行動は大胆になり、俺の手を自分の太腿に持っていった。
俺は麗子の潤んだ瞳を見つめて、一番感じる部分に触れた。
「愛してる、楓」
「俺も愛してるよ、麗子」
麗子は俺を受け入れてくれる反応を示して、色っぽい声を漏らす。
俺自身もはち切れんばかりに頼もしくなっていた。
「麗子」
「楓」
俺と麗子は朝まで愛を確かめ合った。
それからしばらくして、麗子が話があると改まった態度になった。
「麗子、どうした」
「楓、赤ちゃんが出来たかもしれないの」
「マジかよ」
「生理が遅れてて、病院へ一緒に行ってくれる?」
「ああ、勿論だ」
産婦人科に行くと、診察の結果、麗子は妊娠二ヶ月とのことだった。
「麗子、やったな」
「はい、嬉しい」
その帰り俺と麗子はベビー用品を買いに出掛けた。
カゴに沢山のベビー用品を入れて、満面の笑みを見せていた麗子が、急にカゴからベビー用品を戻し始めた。
「麗子、どうしたんだ、買わないのか」
「だって、こんなに買ったら楓のお給料が無くなっちゃうでしょ」
「大丈夫だよ」
「本当?」
麗子は満面の笑みを見せて、またカゴにベビー用品を入れ始めた。
「麗子、同じものは一個にしような」
何個も同じものを種類別にカゴに入れてる麗子に、戻すように促した。
麗子は渋々商品を戻していた。
そんな仕草が堪らず可愛くて、俺は人目を憚らず抱きしめた。
「楓、どうしたの、皆んなが見てるよ」
「いいさ、俺達は夫婦なんだから」
「楓、蓮様に赤ちゃんが出来た事を報告に行きましょう」
「ああ、そうだな」
俺と麗子は蓮と美希ちゃんに妊娠の報告に行った。
「お二人さん揃ってどうしたんだ」
「蓮様、麗子ね、赤ちゃんが出来たの」
「あら、おめでとうございます」
美希ちゃんも蓮也を抱っこして、満面の笑みを見せてくれた。
「蓮也くん、かわいい」
その時、蓮が蓮也を抱っこした。
蓮也はすっかり蓮に懐いている様子が伺えた。
「おお、蓮、父親らしくなったじゃないか」
「当たり前だろ、息子はいいぞ、なんか男同士のテレパシーを感じる」
「そうか」
麗子も大きく頷いていた。
「美希ちゃんは大丈夫?」