「あの時会社に来たなら声をかけてくれたら良かったのに」

美希の表情がちょっと強張った。

「そうでしたね、気がつきませんでした、慰めてあげてください、女の子は弱いんですから」

「美希は弱くないのか」

「おばさんは強いんです」

この時人一倍か弱い美希に気づいてあげる事が出来なかった。

モデルの騒動の時も、嫌だったと泣きじゃくったのに、俺はこの時そこまで気が回らなかったのだ。

「麗子に連絡取って見るよ」

俺が麗子と呼び捨てすることに、入り込めない関係だと思い込んだことなど感じ取る事は出来なかった。

俺は病室を後にした。

この夜、美希は俺の名を呼び、涙で枕を濡らしたことなど知る由もなかった。

次の日、美希は退院の許可を貰った。

しかし、その事は俺には伏せて、一人で退院してしまった、もちろん、マンションには戻らずに……

この日、望月が美希を心配して、病院に来た時、既にベッドはもぬけの殻だった。

「あのう、ここに入院していた鏑木美希さんはどうされたのですか」