八月も中旬になった翌日は、ふたりで海を眺めながらサンドイッチを食べた。

「これ、寧々が作ったの?」
「うん、そう」
「すんごいうまい」

 がぶりと豪快に食いつくアオを見れば、嬉しくなる。
 朝日が輝く太平洋。目には見えぬ向こう側に視線を送る。

「アオが行くアメリカは今、夜なのかなあ」
「そうだと思う」
「こっちはこんなに明るいのに、なんか不思議」

 世界は繋がっている。そんなことわかっているけれど、遠すぎる。

「アメリカ、見えないね」

 そう零すと、アオも小さく頷いていた。私は続ける。

「見えないけど、水平線の先には確かにあるんだよね。海のあっち側には大勢の人が暮らしていて、それぞれの生活を送ってる。だってほら、この風も波もアメリカから来てるんでしょう?」

 これはアオと、そして私にも言い聞かせる言葉だった。離れていても、そこにいる。そうすればこの潮風だって愛しく思える。

 返事をしないアオを横目で見やると、彼はサンドイッチ最後のひとくちを飲み込んでいた。それをゆっくり咀嚼して、遠くを見て。

「ああ、そうだね」

 ただそれだけを言った。
 項垂れれば、家を失くしたヤドカリが一匹淋しく彷徨っていた。


「え、お昼ご飯ここで食べるの?」

 コンビニでおにぎりを購入しどこへ向かうのだろうかと思えば、アオが自転車を止めたのは母校の中学校だった。あからさまに懐かしがる私にアオが聞く。

「ここ寧々の母校でしょ?この辺の中学っていったらここしかないもんな」
「うん!やばい、超懐かしい!アオはどっかの私立?」
「かもねー」
「かも?」
「さ、行こ」

 あやふやな返答をし自転車を降りたアオは、カゴからふたり分の昼ご飯が入った袋を手に取って、迷いもなく校舎に向かう。そのさまに焦るのは私。

「ええ!まさか正門から入るの!?私たち部外者だよ!?」
「こそこそ侵入する方が怪しまれるだろー」
「でもこんな堂々とっ」
「平気だって」

 懸念など一切ない呑気な声。ドキドキと緊張は高まるけれど。

「もうっ。バレても知らないよーっ」

 なんて言いながら、本当はわくわくしているんだ。

 誰かの下駄箱に脱いだサンダルを忍ばせて、裸足で歩く廊下。冷んやりとする足の裏は、真夏でも冷たい海のよう。ぺたぺたと、ふたりの足音が響く。

「寧々の最後のクラスなに」
「三年二組」
「よし、じゃあそこで食べよっか」

 アオの提案でさくっと決まった今日のランチ場所。思い出たっぷりの教室へ着けば、テンションは上がった。