父さんが死んで早2年。
 僕は父さんの残してくれた鍛冶屋を一人で切り盛りし、生活は厳しいけど、村の人たちが優しくしてくれるから、どうにか毎日過ごせている。
 
 ある日、村の村長が僕を呼びつけ、こういった。
「最近、シンギュー村の奥にあるダチバ山に山賊が出入りしている」
「え? 山賊ですか?」
「ああ、だからギュート。お前には剣を作ってほしい。村の男衆に持たせるから10振りほどかな?」
 嬉しい誤算だった。
 山賊は確かに怖いけど、10振りも剣を作れば、3か月は暮らせるぞ。

 噂はたちまちにシンギュー村に伝わっていった。

 僕は気にせず、剣を打ち続けた。
 工房に入って、ロングソードを鍛える。
 シンギュー村は自然豊かでいい素材もたくさん入る。
 と言っても肝心の戦士たちが、村になかなか来ないため、僕の仕事はあまりやってこない。
 たまに大きな戦があるときに、隣の町から発注を受けるぐらいだ。

 それぐらい世界が平和なのだと僕は痛感している。

 15年前に大きな大戦が起こった。
 いや聖戦というべきか?
 勇者レオン様と魔王ブラウズの戦い。
 レオン様は戦いには負けたが、魔王城まで唯一たどり着いた人間だ。

 僕はずっとレオン様にあこがれていた。
 なぜなら勇者様に与えられた聖剣エクスキャリバーが魅力的だからだ。

 この世に一つしかない聖剣。
 いつか僕もそんな剣を創ってみたい。
 そう思って、物心ついたときから剣を打ち続けている。
 だからといって、大戦なき今。
 僕の商売もあがったりだ。

 平和なことはいいことだが、食っていくのがとても大変。
 でも、父さんが死んでから村長や近所の人々が気にかけてくれていて、パンやおかずの残りなんかを分け与えてくれる。

 質素な暮らしだけど僕は幸せなんだ。

「ギュート! 村の男たちが山賊にやられた!」
「え? まだ剣はできてなかったのに……」
「わしもダチバ山に近づくなと言ったんじゃが、あそこに回復草がたくさん生えているからのう」
「じゃあ装備はなにもなしで?」
「いや、斧やナイフぐらいは持っていたはずじゃ」
「相手は何人?」
「そ、それが……」

 村長は言いずらそうに俯く。

「たった一人なんじゃ……」
「え!? ケガ人は? 誰か死んじゃったの?」
「死人はでとらん、しかしみんな骨がやられとるのう」
「そうですか……」
 僕と村長は互いに無言のまま地面を見つめる。

 その時だった。
 女の人の叫び声が聞こえたのだ。

「山賊よぉ!」
 
 悲鳴に驚いた僕と村長は工房から慌てて飛び出た。
 村の中央に人だかりができていた。

 人波をかきわけるとそこには熊のような巨人が立っていた。
 モンスターの皮を縫い合わせて作った雑な鎧。
 スキンヘッドに屈強な肉体。
 鋭い眼つきが僕を驚かせる。

「な、なんじゃ、お前は!?」
 村長がうろたえてしまう。

「この村か? 俺を襲ったのは?」
「襲った? そうか、お前が例の山賊か!」
 村長は激怒して杖を地面に叩きつける。

「山賊? 失礼な……俺はただ、山で修業しているだけだぞ?」
「ウソをつけ! この人でなし!」
 村長は聞く耳を持たない。

「おい、少年。この村は誰彼かまわず襲うやつらなのか?」
「え? 僕のことですか?」
「ああ、お前が一番、聡明な顔立ちに見えたのでな」
 身長は2メートル近い。
 僕の目の前に立つその人は、そんじょそこらのモンスターよりでかい。

「あ、あの……お名前は?」
「俺か? 俺の名はレオン。レオン・ストロングウィルだ」
「え!? あのレオン様!?」

 そう、この人こそが僕が生まれてずっと憧れていた勇者様だったんだ。