烏丸先生とめぐさんが帰ってから、ぼくと蒼葉も部屋に戻った。

「もう白いワンピース着れるんだな」 

 電気を消して、同じ布団の上に横たわったら、蒼葉が思い出したように言った。

「生理が終わったら着ても大丈夫って、めぐさんが」
「天使みたいだって思ったよ。すごく似合ってる」
「本当に?」
「嘘言ってどうすんだ」 

 蒼葉は優しい微笑みを浮かべて、愛情たっぷりにぼくの髪を指で梳いた。毛先が頬に触れてくすぐったい。眠気を振り払うように、枕に顔をこすりつけた。

 日付はとっくの昔に変わっている。だけどまだ寝たくなかった。今の蒼葉はなんだかちょっと変だ。いつもの優しさとは少し違う。まるで最後の別れのような、寂しさが滲み出ている。烏丸先生の言葉を聞いていたはずなのに、ちっともそんな素振りを見せない。まるで、昨日の夜みたいだ。

「明日、ちゃんと行ってね」 

 重たい目蓋を持ち上げながら、ぼくは蒼葉を見上げた。

「烏丸先生、泣いてたもん。ちょっと怖いけど悪い人じゃないよ」
「……ああ」
「蒼葉のこと、みんな大切なんだよ。大切だから、大事にしてほしいんだよ……」  

 分かってる……と、消え入りそうな声が聞こえた。眠りたくないと思うのに、蒼葉の大きな手で頭を撫でられるのが心地よくて、閉じた目蓋はもう開けなくなってしまった。 

 静かに鼓膜を揺らすのは、遠くで響く波の音だけだ。深い闇に包まれた夜は、海の底のようで少し怖い。だけど、蒼葉の体温に包まれたら、そんな恐怖は夢より遠くに消えてしまった。

 蒼葉はぼくのことを「強い」と言ったけれど、ぼくは全然強くない。蒼葉がいるから、強くなれるんだよ。自分を受け入れて前に進むことを、蒼葉は教えてくれたから。 

 長い夜が明けると、カーテンの隙間から朝日が差し込んできた。眠たい目をこすって顔を上げると、隣に蒼葉の姿はなかった。