部屋に戻ると、布団の上に蒼葉の姿はなかった。お風呂場からシャワーの音が聞こえてくる。からっぽになった布団の上に座っていると、数分もしないうちに蒼葉が出てきた。

「帰ってきてたのか」
「うん」
「飯、食った?」
「うん」
「じゃあシャワー浴びて寝ろ。疲れただろ」

 うん、と三度目の返事をして、ぼくはお風呂場へと向かった。シャワーを浴びて、ついでに歯を磨く。部屋に戻ると、蒼葉が手招きをしてドライヤーをあててくれた。いつも通りの夜だった。明日は晴れるって。生理はもう終わるみたいだ。そんな、他愛もない会話をしてから、ぼくたちは別々の布団に寝転んだ。

 電気を消すと、カーテンの隙間から漏れる光だけが、頼りなく部屋を照らし始めた。あんなことがあったというのに、蒼葉は拍子抜けするほど普通だった。あまりにもいつもと変わらないから、蒼葉が倒れたことも、烏丸先生から聞いたことも、嘘だったかのように思えてきた。烏丸先生も神奈も、ぼくを騙しているだけなのかも。そんなことすら思い始めた。

 きっとそうだ。だって蒼葉は普通だもの。自分が死ぬと分かっていたら、こんなに冷静でいられるわけないもの。そう考えたらほっとして、気がつけば、深い眠りに落ちていた。