高速道路に入る前に、お昼ご飯を食べることにした。レストランに入ったぼくたちは、五年の空白を埋めるようにいろいろな話をした。好きなアーティストや嫌いな食べ物、学校の話から趣味の話まで、まるで初対面の人たちが話すようなことを、何時間もしゃべり続けた。

 そうしているうちに時間は風のように過ぎて、結局、高速道路に入ったのは夕方になってからだった。

 日が沈んだら闇が深くなって、車と道路のライトしか見えなくなった。しゃべる話題も枯渇して、沈黙の時間が多くなる。車のシートを倒して、ぼくはぼんやりと窓の外を眺めた。

 時速八十キロのスピードで景色が流れていく。光の残像が、長く伸びては消えていった。あと少し、もう少し。寝て起きた時には、きっと目的地に着いているだろう。ぼくはまどろみながら、花の指輪を指でいじった。五年経った今でも、ぼくの指には大きすぎる。この指輪を、元の持ち主に返す時が来たのだ。

 ――蒼葉。

 声に出さずに名前を呼ぶ。

 ようやく中学校を卒業したよ。ぼく、十五歳になったんだよ。蒼葉に話したいことがたくさんあるよ。会ったら最初に何て言おう。「久しぶり」「元気だった?」もしかしたら、喜びで言葉が出てこないかもしれない。そうなったら、思いきり抱きついてもいいかな。昔みたいに抱き締めてくれるかな。

 九十パーセントの期待と十パーセントの不安を胸に抱いて、ぼくはそっと目を閉じた。