「神奈!」

 神奈から連絡を受けためぐさんが、すぐにぼくたちの元へ駆け寄ってきた。差していた傘が砂浜に落ちる。綺麗な長い髪は雨に濡れてぐちゃぐちゃだ。

「烏丸先生には連絡した?」
「うん。どうしよう、蒼葉が……」
「男のくせに泣きべそかかないの。野ばら、あんたは大丈夫?」

 ぼくは泣きながら何度も頷いた。いくら神奈が声を掛けても、蒼葉が目覚める気配はない。まるで死人のように砂の上に横たわったままだ。体が冷たい。心臓の音がどんどん小さくなっていく。ぼくの心音は大きくなる。波は蒼葉を襲う機会をうかがっているかのように揺れて、荒れて、唸っている。

 怖い。なんだか今、すごく怖い。何が怖いのか、何に怯えているのか。冷たい雨のせいで脳みそが冷えて、うまく思考が働かない。めぐさんは安心させるようにぼくの体を抱き寄せた。

「体が冷えてる。野ばらはあたしが引き受けるから、あんたは蒼葉の傍にいて。落ち着いたら連絡して」
「わ、分かった」

 神奈は震える声で頷いた。めぐさんはぼくを抱き上げると、そのまま岬へと走り出した。

「蒼葉っ……!」

 ぼくは離れていく蒼葉に向かって手を伸ばした。嫌だ、離れたくない。今別れたら、二度と蒼葉に会えない気がする。

「蒼葉、蒼葉ぁ!」
「蒼葉は大丈夫だから。とりあえず、お風呂に入ろう。今は自分のことを優先するんだよ」

 めぐさんは有無を言わさない口調で言った。雨と涙で視界は悪くて、蒼葉の姿はすぐに見えなくなった。どこからか車が走ってきて、お店の傍で急停車する音が聞こえた。烏丸先生が来たんだ、と、めぐさんが荒い息の隙間に教えてくれた。でももう、どれだけ目を凝らしても蒼葉は見えない。全身がぶるぶる震えてとまらない。

「もうちょっとだから、頑張って」

 体温を分け与えるように、めぐさんが腕に力を込める。それでも、震えはちっともおさまらなかった。