昨日と同じ砂の上を、自分の足で、昨日よりもゆっくり歩いていく。夕日がすぐそこまで来ている。空を、赤く染めようとしている。あんなに好きだった波が、ぼくを呑み込もうと手を伸ばしているような気がして、なんだか急に怖くなった。

 早く蒼葉に会いたい。ううん、本当はちょっぴり会いたくない。嫌われてるかもしれない、そう考えると、怖くて足がすくんでしまう。だけどそれでも、会いたい気持ちが膨らんでいくから、ぼくは走ってしまうのだ。

 お店をちらりと覗いてみたけれど、蒼葉の姿は見えなかった。階段を上って、ドアノブに手を掛けたら、また、恐怖心が襲ってきた。心臓が、警報のように大きく鳴る。痛みを振り払うように首を振って、そっと、扉を開いた。靴を脱いで部屋に上がる。

 この間と同じように、蒼葉は窓際に腰掛けて、ぼんやりと海を見ていた。ぼくに気がついて、のんびりした速度で振り返る。海に落ちようとする夕日が眩しくて、ぼくは思わず目を細めた。逆光で、蒼葉の顔がよく見えない。

「もう、大丈夫か」 
「うん……」

 恐る恐る答えたら、蒼葉はほっとしたように短く息を吐いた。
 波の音が大きくなった。時計の針が、心臓と同じくらいうるさく感じる。判決の時を待つように、ぼくは蒼葉の言葉を待った。  

 蒼葉は何も言わずに立ち上がると、ぼくの横を通り過ぎて玄関へと向かった。サンダルを履きながら、振り返ってぼくをじっと見る。ぼくを呼んでいる合図だ。ぼくは迷わず蒼葉の元へと向かった。