中学校を出たぼくたちは、家の近所にある駄菓子屋へと向かった。小学校の頃よく通った、昭和の置き土産のような店だ。コンビニでは買えないようなお菓子がずらりと並べられている。

「おばあちゃん、これちょうだい」

 ぶどうの形をしたグミを二つ取って、駄菓子屋のおばあちゃんに差し出した。

「二つで四十円ね」

 財布の中から五十円玉を取り出す。増税しても駄菓子の値段は変わらない。繁盛している様子もないのに、どうして潰れないのか。小学生の時からの疑問は未だに解決していない。おつりを差し出しながら、おばあちゃんが柔らかく笑った。

「野ばらちゃんも卒業かい。おめでとう」
「ありがとう」
「早いねぇ。高校生になっても、たまには遊びにくるんだよ」
「うん」

 はにかみながら頷いて、ぼくはグミをポケットの中にしまった。

 駄菓子屋のすぐ近くにある公園は、忘れ去られたように閑散としていた。蕾すらついていない桜の木と、お飾りのような遊具。たとえ桜が咲いたとしても、花見に来る人はいないだろう。

 ぼくらは隅っこにあるベンチに腰掛けた。さっき買ったグミの一つを「はい」と神奈に手渡す。

「うわ、懐かしい。小さい頃よく食べてた」
「ぼくも食べるのは久しぶり。好きだったんだ、これ」

 豪快に袋を破って、グミを口の中に放り投げた。懐かしい味がじんわりと広がる。

 目の前には大きなジャングルジムがあった。ところどころペンキがはげている。鉄棒は錆びついた色をしているし、シーソーはちゃんと動くかどうかすら疑わしい。

 小学生の頃は、こんなつまらない遊具を求めて毎日のようにここに通った。太陽が沈むまで、寧々やテルと遊び続けた。一体何がそんなに面白かったのだろう。それほど時間が経ったわけでもないのに、当時の自分の気持ちがさっぱり分からない。

 多分あの頃は、この公園が世界の全てだったんだ。一人で電車にも乗れなかったぼくらの、精一杯の冒険が、この公園だったのだ。

「何もないでしょ、この町」
「そんなことないよ。静かだし、平和そう」
「やっぱり何もないってことじゃん」

 あはは、と神奈がわざとらしく笑った。

「もう十五歳になったんだよね」
「うん」
「早いねぇ。出会った時は小学生だったのに。どうだった、学生生活は」
「別に、普通。楽しいことなんて何もなかった」
「そう。まぁ、中学ってそんなもんだよね」
「神奈も楽しくなかったの?」

 ちょっと意外だった。神奈なら、どんなことでも楽しみそうなのに。

「昔はちょっと反抗期っていうか、荒れてたから」
「もしかして、不良?」
「ち、違うよ。そこまでは行ってないよ……多分」

 ふぅん、とにやにやしながら顔を覗き込む。神奈は気まずそうに顔を背けて、

「懐かしいなぁ、こうして野ばらちゃんと話すの」と言った。
「忘れられてたらどうしようと思ったけど、ちゃんと覚えていてくれて安心した」
「忘れるわけないよ。……神奈、老けた?」
「えっ?」
「なんか、しゃべり方がおじさんになった」
「やだ、僕はまだまだ若いって。なかなか手厳しいなぁ」

 顔は笑っているけれど、口元がひくひくと引きつっている。ちょっと傷ついたらしい。

「あれから何してたの?」
「五年前と変わらないよ。料理作ったり買い物したり……あ、あと、かわいい子ナンパしたり、デートしたり」
「ははっ、何それ」
「本当だよぉ」
「嘘つき」

 ナイフを突き刺すように言い切った。

「女の人、苦手なくせに」
「……本当だよ」

 神奈は悲しそうに微笑んだ。