神奈がお店に帰ってくると、二人きりの演奏会は終わりを迎えた。夕飯までの時間、ぼくは水着に着替えて海の上に浮かんだ。相変わらず、蒼葉は決して海に近づこうとはしなかった。ぼくが海にいる間、恐るように、怯えるように、水平線の彼方を見つめ続けた。

 夕日が海に近づいてきた頃、ぼくはようやく部屋に戻った。水着を脱いでシャワーを浴びていた時、その異変は起こった。
 くらり、と目眩がした。足の間から、どろりとしたものが出てくるのを感じた。赤い液体が体の中から垂れて、お湯と一緒に排水口へと吸い込まれていく。  

 血だ。

 どこも怪我なんてしていない。どこも痛くない。だから確かめなくても分かる。美奈子先生が授業で言っていた、「大人になる準備」。


 ぼくは、おんなに、なってしまった。