蒼葉の車に乗って、ぼくたち三人は近くのスーパーへとやってきた。クーラーが効きすぎていてちょっと寒い。買い物かごを押しながら、蒼葉は何度も大あくびをしている。神奈はメモを見ながら、食材をどんどんかごの中に入れていった。

「それ、なぁに?」
「アボカド。森のバターって言われてるんだ。こっちはパッションフルーツ。あ、しいたけも買わなきゃ」
「いらない」

 神奈がしいたけを手に取ると、蒼葉がさっとかごを遠ざけた。

「もー、好き嫌いしないの。野ばらちゃんが見てるよ」
「しいたけ嫌いなの?」

 シャツの裾を引っ張ったら、蒼葉は「人間の食うものじゃない」と眉を寄せた。

「まーたそんなこと言って。いいよ、蒼葉には食べさせないから」

 えいっ、と神奈がしいたけをかごの中に放り込む。蒼葉は恨めしげにしいたけを睨んだ。子供みたいな表情がおかしくて、ぼくは笑いがとまらなかった。

 会計を済ませると、蒼葉は食材がぎっしり入った買い物袋を両手に持った。何も言わずに神奈が持っていた分まで奪い取って、車の後部座席に詰め込んでいく。お店に戻ると、蒼葉は全ての荷物を車から運んだ。

「……家族みたい」

 冷蔵庫に食材を詰め込んでいる二人を眺めて、ぼくはぽつりと呟いた。「誰が?」神奈が不思議そうに振り返る。

「蒼葉と神奈が。何も言わなくても、全部分かってる感じ」
「ああ、まぁ付き合いも長いからねぇ」
「ただの腐れ縁」

 しいたけを冷蔵庫にしまいながら、ぼそぼそと蒼葉が呟く。

「二人はいつから友だちなの?」
「いつだっけ? 十年前くらい?」
「もっと前だろ。お前が小学生の時だから……」
「うっそ、そんなに昔だっけ? 全然覚えてないや」

 二人の会話を聞きながら、ぼくはテルと寧々のことを思い出した。

 二人とも、元気かな。ぼくのこと、心配してないかな。ぼくが海にいることを知ったら、テルは何て言うだろう。抜けがけなんてずるいって怒るかな。寧々はもう、体調はよくなったのかな。ぼくを探していたりするのかな。

 ――当分、遊ぶのはやめようぜ。

 テルに言われた言葉を思い出して、はっとした。ああ、そうだった。もう三人ではいられないんだ。だからぼくは、あの場所から逃げ出したんだった。ぼくはカウンターの席に座って、ぶらぶらと足を揺らした。蒼葉と神奈はお互いに罵り合いながらも、ちゃんと協力して食材をしまっている。何も言わなくても全部伝わっている。まだ二人と出会って間もないけれど、そのくらい、見ていれば分かる。

 十年くらい一緒にいれば、二人のように分かり合うことができるのかな。何も言わなくても、ぼくの気持ちを分かってくれる。そんな日が、いつか来るのだろうか……。

「どうしたの、野ばらちゃん」

 冷蔵庫に食材を詰め終えた神奈が、不思議そうにぼくの顔を覗き込んできた。ぼくは慌てて首を振った。

「ううん、何でも」
「それならいいけど。あっ、今日のご飯は何にしようか。リクエストがあったら何でも言ってね」
「しいたけ以外」
「蒼葉には聞いてないもーん」

 つんとそっぽを向く神奈の横を、蒼葉がすたすたと通り過ぎる。二人のやりとりがおかしくて、ぼくはまたまた声を上げて笑った。