新しい朝を喜ぶように、かもめが甲高く鳴き始めた。

 年季の入った薄いカーテンをすり抜けて、日差しが部屋に入ってくる。だんだん高まる室温が苦しくて、ぼくはゆっくりと両目を開いた。

 ぼくの部屋とは違う、見慣れない天井。頭だけ横に傾けたら、カーテンの隙間がきらきらと輝いていた。海が光っているのだ。そう気づいたら、寝ぼけた頭がだんだん冴えてきた。

「起きたのか」

 むくりと上半身を起こすと、部屋の隅っこで蒼葉がこじんまりと座っていた。前髪から覗く瞳は、寝起きのぼくよりもしょぼしょぼしている。

「おはようございます……」
「おはようございます。顔、洗ってこい」
「はぁい」

 ぼくはのろのろと立ち上がって、あくびをしながら洗面所へと向かった。鏡の前に、真新しいピンクの歯ブラシが置いてあった。そういえば、昨日は歯を磨かずに寝てしまったんだ。そう思い出して、顔を洗ってから歯を磨いた。部屋に戻ると、カーテンが開けられていて、青い海が窓一面に広がっていた。

 ああ、昨日のことは夢じゃないんだ。ほんの少し窓を開けたら、潮風がぼくの髪をなびかせた。家族も寧々も、テルもいない場所に、ぼくはいるんだ。

 キッチンの方から、なにやらゴトゴトと音がした。振り向くと、蒼葉が大きなスイカを切っているところだった。

「わぁ、スイカ!」
「昨日、神奈にもらった」

 このスイカが今日の朝ご飯のようだ。大きく口を開けてかぶりつくと、甘い果汁が口の中いっぱいに広がった。

「おいしーい」
「口からこぼれてる」

 蒼葉がふっと笑いながら、タオルで口を拭いてくれた。

「朝からスイカって贅沢。うちじゃ絶対ないよ」
「普通、ないだろ」

 パクパク食べるぼくと違って、つまようじで種を取りながら、ちまちまとスイカを食べている。体は大きいのに、まるでネズミみたいな食べ方だ。さっきからちっとも減ってない。

「ちょっと前まで、スイカって苦手だった」
「何で」
「種がうまく取れなくて……あっ」
「どうした」
「種、飲み込んじゃった」

 あーっと大きく口を開けて見せたら、蒼葉の顔が深刻そうに曇った。

「まずいな」
「何が?」
「腹からスイカが生えるぞ」
「えっ……嘘!」
「嘘」

 ……もしかして、からかわれた?

 ぼくは無言で蒼葉の肩を叩いた。蒼葉はにこりともせず、再び種を取る作業を始めた。