そのまま二時間くらい神奈としゃべっていたら、蒼葉がふらふらと戻ってきた。頭に寝ぐせがついている。

「買い物、行くぞ」

 その言葉に頷いて、ぼくは車の助手席に乗り込んだ。

「何を買うの?」
「必要なもの。……歯ブラシとか、服とか」

 エンジンがかかった途端、ごおお、と埃っぽい空気が顔にかかった。大きくくしゃみをしたら、助手席の窓を開けてくれた。潮風を肌に感じながら、海沿いの道路を勢いよく走り出した。海から離れるにつれ、車がどんどん増えてきて、大きな建物も多くなった。

 二十分ほどでショッピングモールに到着した。ぼくと蒼葉は、二人でカートを押しながら、広い店内をのろのろと歩き回った。日用品を一通り買ってから、二階の洋服売り場に向かった。子供用の下着を二、三着、無造作にかごの中に放り込んでから、蒼葉は「服、適当に選んで」と言った。

「服は、買わなくていいよ」

 出会ったばかりの人にいろいろ買ってもらうのが申し訳なくて、ぼくは蒼葉の顔を見上げた。蒼葉は不思議そうに首を傾げた。

「どうして?」
「ぼく、この服でいい」
「でも、それだとぶかぶかだぞ」
「そう、だけど……」

 ぼくは言葉に詰まって、力なく俯いた。何も言えずにもごもごと口を動かしていると、蒼葉の大きな手が頭に触れた。見上げると、苦笑気味の蒼葉と目が合った。 

「じゃあ、一着だけな」
「……うん!」

 近くにあったTシャツとズボンを適当に選んで、ぽいっとかごの中に放り込んだ。会計を終えたら、カートの中は買い物袋でいっぱいになった。

「他にほしいもの、あるか」
「うーん……」

 ぼくはきょろきょろと店内を見渡した。

「……あっ」
「どうした」
「ううん、何でもない」

 慌てて首を振った。蒼葉は後ろを振り返って、ああ、と納得したように頷いた。カートの向きを変えて、水着売り場へと向かう。

「水着、ほしいのか」

 ぼくは何も答えず、水着から逃げるようにカートの後ろに隠れた。そのままもじもじしていると、「どれがいい」と蒼葉が聞いてきた。

「いいの?」
「ガキのくせに余計な気、遣わなくていい」

 そうやって面白そうに笑うので、ぼくはちょっとむくれた。ほら、と背中を押されて、たくさんの水着の中に放り込まれた。花柄のワンピースから、ちょっと大人っぽい、上下が分かれたものまである。スクール水着しか着たことがないぼくは、種類の多さにびっくりした。散々悩んだ挙句、花柄のワンピースタイプのものを手に取って、蒼葉に渡した。お、と小さく呟いて、蒼葉はそれをレジに持っていった。どきどきしながら待っていると、会計を済ませた蒼葉が返ってきた。

「じゃあ、帰るか」

 そう言って歩き出そうとした蒼葉のシャツを、ぼくは思わず引っ張った。蒼葉がびっくりしたように足をとめた。

「何?」
「……迷惑じゃない?」

 恐る恐る尋ねたら、蒼葉はちょっと考えて、それからぼくの髪をくしゃくしゃと撫でた。

「迷惑だったら、連れてきてない」

 ほら、と、今買ったばかりの水着をぼくに差し出す。ぼくはそれを受け取って、ぎゅっと胸に抱き締めた。蒼葉は満足そうに頷いて、カートを押して歩き出した。

 買い物袋を後部座席に積んで、再び車に乗り込んだ。一時間ほどしか経っていないのに、太陽は更に光を強めていた。ごちゃごちゃした町並みを走り抜けると、突然パッと視界が開けて、青い空が広がった。窓を開けたら、潮風が車の中に入ってきた。海が近いのだ。そう思ったら、胸が弾んだ。