「ごめんね、心配掛けて」

 ベッドに横たわった寧々が、申し訳なさそうに眉を下げた。

「ううん。おなか、大丈夫?」
「うん。ちょっと落ち着いた」

 寧々の穏やかな微笑みを見て、ぼくはほっと息を吐いた。薬が効いたのか、顔色もだいぶよくなった。もう心配はなさそうだ。

「よかった。ぼく、寧々が死んじゃうかと思ったよ」
「大げさだよ。勝手に殺さないで」

 でも、と寧々はぼくの手を握った。

「本当にありがとう。野ばらはあたしの王子様だね」
「……へへ」

 なんだか気恥ずかしくなって、ぼくは下唇を弱く噛んだ。ぼくが王子様なら、寧々はお姫様だ。ベッドに置かれたたくさんのぬいぐるみ。ピンクのカーテン。花柄の布団に横たわる寧々は、眠り姫みたいに綺麗だ。ぼくの部屋はシンプルだし、ぬいぐるみなんて買ってもらったこともない。

「あのね、話があるの」

 なぁに、と問いかけたら、寧々は気まずそうに声を潜めた。

「……明日のプールね、行けなくなっちゃったの」 
「えっ……そ、そんなに体調悪いの?」
「それもあるけど、そうじゃなくて」

 寧々はぼくの手をそっと解いて、顔半分を布団で隠した。ためらいが沈黙に変わる。なんだか心臓がどきどきした。ぼくが言葉を待っていると、寧々は小さな声で、

「……生理になっちゃったの」
「えっ」

 何を言われたのか分からなかった。生理って、あの、生理? 体から血が出る、「大人になる準備」ってやつ? 
「だから、ごめんね。また、今度行こうね」

 泣き出しそうな寧々の声に、ぼくは頷くことしかできなかった。