それから数日が過ぎて、あっという間に終業式の日が来た。
 
 校長先生の長い話を聞いて、死刑宣告みたいな通知表を受け取ったぼくらは、たった三時間ほどで学校をあとにした。

「相変わらずあんたは運動音痴ねぇ」

 通知表を眺めながら、お母さんがあきれたようにため息をついた。

「違うよ。体育はプールだったから。走るのは得意」
「他は全部Aなのに。ああ、もったいないもったいない」
「勉強はできるんだからいいじゃん」

 ぼくはそうめんをズルズルとすすりながら、むっと頬を膨らませた。最近毎日そうめんばかり食べている気がする。ぼくの胃の中にはきっとそうめんの海ができているだろう。

「ま、お姉ちゃんに比べたらずっといいわね。よく頑張ったわ」

 お母さんは苦笑して、ぼくの頭をよしよしと撫でた。 

 昼ご飯を食べ終えて公園に行くと、寧々がブランコに座っていた。

「お待たせ。テルは?」
「今日は男の子同士で遊ぶみたい。家でゲームするんだって」
「ふーん」

 寧々の隣に腰掛けて、ぼくはブランコをこぎ始めた。傍にある空気が風に変わって気持ちがいい。真上にある大きな木が、ぼくらを夏の暑さから守ってくれている。ふと見上げると、木漏れ日がぼくらの上に降ってきた。太陽を反射した海みたいに、きらきらと輝いている。

「今日も暑いですねぇ」

 寧々が、おばあちゃんみたいな口調で呟く。そうですねぇ、とぼくは返す。  

「公園で遊ぶのは、さすがに辛いですねぇ」
「そうですねぇ……」

 いくら日陰にいるとはいえ、太陽光はやっぱり手ごわい。どれだけ風を浴びても、汗はどんどん溢れてくる。この間まで遊んでいたジャングルジムにも、もう登る気にはなれない。

「でも明日はプールだし、きっとすずしいよ」

 元気づけるようにそう言うと、寧々は「う、うん……」と微妙な返事をした。

「そのことなんだけどね、あのね……」

 寧々の声が不自然に途切れた。ブランコの揺れが小さくなる。寧々は片手でおなかを押さえると、そのまま辛そうにうずくまった。

「どうしたの?」
「……おなか、痛い」
「えっ、大丈夫?」

 ぼくはブランコから下りて、寧々の顔を覗き込んだ。顔が青い。額に汗が滲んでいるのは、きっと暑さのせいじゃない。

 ぼくは寧々を背負って、でこぼこの道を走り出した。息が弾む。体中からぼとぼとと汗が垂れ落ちて気持ちが悪い。蝉の声が急かすように追いかけてくる。寧々はぼくの肩に頭を置いてぐったりしている。ぼくよりも呼吸が荒くて苦しそうだ。

 嫌だよ寧々、死なないで。汗と涙でぐちゃぐちゃになりながら、ぼくは寧々の家へと走り続けた。