更衣室で着替えを終えたぼくたちは、髪を拭きながら教室へと向かった。小学校のプールは校舎からちょっと離れているから、早足で歩かないと次の授業に遅れてしまう。分かっているからこそ、ぼくらは普段と変わらないスピードで歩く。プールのあとの授業は、先生が少し遅らせてくれるのだ。幼さを言い訳にして、小学四年生のぼくらはあざとく成長している。 

「次の授業、何だっけ」

 隣を歩く寧々に尋ねる。濡れた髪から滴る雫が、ほんのちょっと色っぽい。

「保健だよ、保健。夏休みの宿題の説明だって」
「ええーっ、やだなぁ」
「何で? 国語とか算数より楽なのに」
「だって、終わったあと男子がにやにやするんだもん。やらしくて、気味悪い」
「男子って子供だから。放っておけばいいんだよ、そんなの」
「でも……」
「もーっ、野ばらは繊細なんだから」

 ぼくの不満を吹き飛ばすみたいに、寧々はぼくの背中をバシバシと叩いた。どれだけ強く叩いても、ぼくの不満は体から出ないのに。

「そういう寧々は気にならないの?」
「あたし? うーん、そりゃ嫌だけどぉ……無視しとけばいいかなって。ちょうどそういう時期なんだよ、シシュンキってやつ?」
「……寧々は大人だなぁ」

 ぼくは素直に感心して、口から長く息を吐いた。どうやったらそんな考えが持てるのだろう。そんなことないよぉ、と寧々は照れながら否定した。

「ほら、早く行こう。ほんとに遅刻ちゃうよ」
「うーん……」

 鈍く返事をして、ぼくはのろのろと足を進めた。