「……私、バカだ。最低だ……っ」

 両手で溢れ出る涙を拭いながら、猛烈に自分が情けなくなる。

 一人で舞い上がっていた自分が気恥ずかしいだけじゃない。倉吉先輩が苦しんでいる事実を知ったのに、それよりも彼のマフラーが自分に向けられた好意でなかったことに心を痛めている自分が、許せなかった。

 本当に泣きたいのは、泣いていいのは、私じゃない。

 そう頭では理解していても、次々と湧き出る涙を止めることはできなかった。

 血が出そうなくらい強く唇を噛み締めて、嗚咽を噛み殺す。そうして自分を咎めている私を、夏恵は正面から優しく抱きしめた。

 彼女はそのまま子供をあやすかのように、ゆっくりと私の背中を擦った。一定のリズムで動く手が、自分を飽和している温もりが、胸の内の荒れ狂った感情を癒していく。

 強張っていた体の力を抜いて、夏恵の肩に頭を預ける。

 夏恵は私が泣き止むまで背中を擦り続けてくれて、私は徐々に冷静さを取り戻しつつある頭で、一つの解答を見つけたような気がした。

(私も、こうすればよかったのかな)

 穂乃花が悲しんでいたあの時。何も言わずに、ただこうして寄り添うだけでよかったのかもしれない。

 それを薄情だと思う人もいるだろう。けれど無理に言葉を紡ごうとせずとも、こうやってただ抱きしめられるだけで、こんなにも心が安らいでいく。あの時の私は、それを知らなかった。

「……夏恵」

「何?」

 しゃくりを上げながら名前を呼ぶと、夏恵は私の背中を擦ったまま返した。

「私……失恋、しちゃったみたい」

「……辛かったね」

「それでも私、まだその人が好きなんだ」

「うん」

「その人はね、今、私よりも辛い状況で……悲しいはずなのに、無理して笑うの」

「優しい人なんだね」

「私……もう、あの人の作り笑いは見たくない。私にできるかはわからないけど、あの人を助けてあげたい」

 ぽつりぽつりと自分の思いを口にすると、耳元でクスクスと笑う声が聞こえた。

「美夜ちゃん、なんだか人魚姫みたい」

 もう大丈夫。そんな意味を込めて夏恵の肩を優しく押すと、彼女はあっさりと私を解放する。

「ありがとうね」

 目元を擦りながらお礼を言うと、夏恵は茶化すような声で微笑する。

「私、初めて美夜ちゃんと恋バナしちゃった」